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病院に理学療法士として勤めていたときには、腰痛や膝(ひざ)痛、肩痛といったような関節痛を訴える患者さんを毎日診ていました。そうした中で、多くの人は「膝痛があれば膝の筋トレやストレッチ」、「腰痛であれば体幹のトレーニング」といったように、症状が出現している部位への治療を中心に行っていました。

しかし、そうした症状が認められる部位への治療だけでは、良好な結果が得られないことがほとんどです。むしろそのような治療は、症状を悪化させてしまうことも少なくありません。

症状がある部位への治療が上手くいかないのは、「関節痛における原因の多くは、痛みを起こしている部位の関節にはない」ということが関係しています。

膝や腰、肩などの関節痛のほとんどは、痛みが出ている関節ではなく、背骨や骨盤といった体の中心に原因があります。そうしたことを知らずに、症状が出ている関節に対して、痛みを我慢して筋トレやストレッチを行ってしまうと、疼痛や変形を悪化させることになります。

そうしたことを避けるためにも、関節痛などの障害を予防・改善するためには、まず体に対する正しい知識を持つことが大切です。

そこで今回は、「四肢の関節痛・筋肉痛と背骨の関係性」について解説します。

 背骨の役割
膝痛や腰痛、肩痛などの四肢・体幹における関節痛を理解する上で、背骨は非常に重要な部位になります。多くの関節痛は、背骨が原因で生じています。そのため、背骨の役割について学ぶことは、膝痛や腰痛、肩痛などを予防・解消するためには欠かせないことだといえます。

そして、背骨の主な役割は大きく分けて「衝撃吸収」と「バランスコントロール」の2つに分類されます。

 ・衝撃吸収機能
背骨の形状は、体を横から見ると「S字状」に弯曲しています。首と腰の部分が前に凸、肩甲骨辺りの胸部分が後ろに、凹凸が交互につながり、凸と3つのカーブを描いています。

このようなS字の形状は、人間に特有のものです。そして背骨は、こうしたS字構造をしていることでバネのように働き、体にかかる衝撃を吸収するという役割があります。つまり、体にかかった衝撃は、背骨のS字がたわむことで弱められます

こうした背骨の衝撃吸収能力は、膝痛や腰痛、肩痛などと大きく関係しています。

例えば、歩いて足を床に着いたとき、床からの衝撃を足に感じると思います。このように、人が歩くときは、床から体に対して「床反力」と呼ばれる力が加わります。

そしてこうした床反力は、体のどこかで吸収する必要があります。そして、歩く際の床反力の衝撃は、足関節や膝関節はもちろんのこと、骨盤や背骨といったように全身で行われます。

もしこのとき、床反力が上手く緩衝されなければ、足や膝、股関節といった関節への過剰な負担となって、関節痛などを引き起こすことになります。

これは、腕を使ったときも同様です。例え、指から返ってくるような力であっても、指関節や肘関節、肩関節、肩甲骨、背骨というように、全身の関節に衝撃が伝わります。

そして、こうした衝撃を主に吸収する場所が背骨になります。足からでも指からであっても、体にかかる反力の約70パーセントは、背骨によって緩衝されます。背骨がS字状に弯曲していることで、バネのように力を吸収します。

そのため、こうした背骨のS字状構造が無くなり、バネとしての役割を果たさなくなると、膝や股関節、肩関節などにかかる衝撃が強くなります。その結果、関節痛が出現することになります。

 ・バランスコントロール
背骨の重要な役割の1つに、「バランスコントロール」があります。

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体には、転倒しないように、バランスが崩れた場合には自動的にバランスを修正する機能があります。例えば、立っているときに急に後ろから押された場合には、無意識に足を前に踏み出して転倒を防ぐ反応が出ます。

ただ、日常的な生活の中では、このように明らかに転倒につながるような大きなバランスの崩れが起こることは多くありません。普段起こるバランスの問題は、あなた自身が意識しないような小さなものであることがほとんどです。

そして、そうした無意識に起こる小さなバランスの崩れを修正しているのが背骨になります。

例えば、椅子に座った状態で、片方のお尻に体重を乗せます。そのとき、体が体重をかけた側に倒れないように、自然と背骨が反対方向に曲がります。

このように、日常的に起こるバランスの崩れのほとんどは、背骨の反応によってコントロールされています。そして、背骨がバランスを取るためには、柔軟に動けるような背骨の柔らかさが必要になります。

そのため、背骨の柔軟性が低下してしまうと、背骨によるバランスコントロールが上手くできなくなります。

そうなると、体にはできるだけバランスを崩さないように、体を固くして体の動きを制限するような反応が起こります。つまり、できるだけ小さな範囲しか体が動かないようにして、バランスの崩れを最小限にします。

このような状態は、ツルツル滑る氷の上を歩くときを想像してもらうと理解できます。氷の上では、全身の筋肉を緊張させることで、できるだけバランスを崩さないようにして歩きます。極端な例ではありますが、背骨の柔軟性が低下すると、このように「全身の筋肉を固める」という反応がでます。

その結果、四肢の筋肉が過剰に緊張して関節痛の出現につながります。

 背骨の硬さと四肢の関係
背骨の柔軟性が低下すると、衝撃吸収機能とバランスコントロール能力が悪くなってしまうことで、四肢や体幹に過剰な負担が生じて関節痛や筋肉痛が起こります。

また、背骨が硬くなることで四肢や体幹の関節痛や筋肉痛が起こるメカニズムは他にもあります。

手や足を使った運動は、一見すると手先から肩、もしくは足先から股関節までしか動作には関係していないように見えます。しかし実際には、手や足を動かすときには、必ずその中枢にある背骨や骨盤も一緒に動きます。

例えば、背中を丸めた状態で、バンザイの動作を行ってみてください。背中を丸めることで、背骨の動きは制限されてしまっているため、腕は上がりにくくなります。

一方で背中を伸ばした状態で、背骨が自由に動けるような姿勢で同じ動作を行うと、腕がスムーズに上がることが実感できると思います。これは、腕だけではなく、足や膝などの下肢にも同じことがいえます。

このように、背骨や骨盤といった体の中心にある関節の動きが制限されると、体幹はもちろんのこと、四肢の動作も上手く行えなくなります。また、そのような状態で動作を遂行するためには、末端にある四肢の関節が大きく動いたり、筋肉が頑張って働いたりしなければいけなくなります

つまり、背骨や骨盤といった体の中心の柔軟性が低下してしまうと、四肢の関節や筋肉に過剰な負担がかかることになります。

こうした理由から、膝痛や腰痛、肩痛といった関節痛を予防・解消するためには、背骨や骨盤の柔軟性が欠かせないといえます。

今回述べたように、背骨には「衝撃吸収」「バランスコントロール」という役割があります。そして、そうした背骨の機能が低下してしまうと、その分が四肢の関節に対する負荷となります。

また、体を動かす際には、どのような動作であっても必ず背骨や骨盤の動きを伴います。このときに背骨や骨盤に動きの制限があると、同じように四肢の関節と筋肉に過剰な負担がかかることになります。