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糖尿病は、理学療法士が接する患者さんの中で、多くの人が患っている疾患の一つです。糖尿病に対して、理学療法の処方が出ることは多くありません。しかし、臨床において、患者さんが訴える症状の原因が、糖尿病にあるということ多々あります。

そこで今回は、この糖尿病について、理学療法士に必要な知識を書きます。

糖尿病の基礎

糖尿病は簡単にいうと、膵臓のβ細胞から分泌されるインスリンの作用不足で、血糖の利用が制限されるため、高血糖状態になり、さまざまな症状が出てしまう病気です。

糖尿病には1型と2型があります。1型は、膵臓のβ細胞に異常があり、インスリンが量的に不足している状態です。一方、2型は、後天的にインスリン抵抗性が増し、インスリン自体の分泌の低下とこのインスリン抵抗性が合わさった病態です。

高血糖状態は、血管系を中心にさまざまな障害を引き起こします。その代表例が、糖尿病性腎症、網膜症、神経症です。この3大合併症に加えて、脳血管障害、心血管障害のリスクが大きく上がり、合併症により、多くの人の死因につながります。

そして、これらの病態、症状を作る原因となるのが、血糖値の変動です。

血糖値

血糖値は、国際糖尿病連合によると、空腹時血糖値は100mg/dl未満、食後1~2時間で160mg/dl未満が目標にされています。

血糖値は180mg/dlを超えると、確実に血管内皮を損傷するとされており、食後血糖140mg/dl以上で損傷のリスクがあると考えられています。また、高血糖の状態も問題ですが、高血糖状態よりも血糖変動を繰り返すほうが、血管内皮損傷のリスクが高いというエビデンスがあります。

血糖値の上昇は、基本的にはインスリンにて調整されています。

インスリンの分泌には、その目的によって2種類あります。一つは、糖質の摂取による急激な高血糖状態時に、血糖値を調整するものです。これは貯蔵されていたインリスリンの分泌によるものです。そして二つ目は、糖新生などによる普段から生じるような微妙な血糖値の変動を調整するものです。

糖尿病の方は、このインスリンが不足しているために、血糖値の上昇が生じてしまいます。

また、摂取することにより血糖値を上昇させるものは糖質のみです。純粋なタンパク質や脂質は血糖値に影響しません。

血糖値調整

まず前提として、細胞の中で、唯一ブドウ糖しかエネルギー源として使用できないのは赤血球のみです。脳は、ブドウ糖以外にケトン体を使用できます。

そして、その赤血球に必要な血糖は肝臓の糖新生により維持されます。この糖新生に必要なものはアミノ酸、乳酸、グリセロールといった、タンパク質、脂質を構成している成分です。また、糖新生による、最低限の血糖維持は正確に調整されており、よほどのことがない限り、糖質不足で血糖値が下がることはありません。

糖質を摂取すると、インスリンの作用で、半分は肝臓に貯蓄され、残りは全身循環に流れます。そして、全身循環に流れた分もインスリンの作用で、筋や脂肪細胞に取り込まれ、エネルギー源として使われます。筋や脂肪細胞で使われなかった血糖は、インスリンの作用により脂肪組織や肝臓で中性脂肪に変えられ蓄えられます。

糖尿病の人は、この糖の肝臓への貯蓄と全身循環での利用が制限されるため、高血糖状態が続くということです。

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以上が、血糖値に関する基本的な知識になります。脳はブドウ糖以外のエネルギー源があることは知らなかった人が多いのではないでしょうか。また、冒頭に述べたような、理学療法士が遭遇する症状の原因に、この血糖は大きく影響しているため、注意が必要です。

高血糖の影響

高血糖の一番の問題は、血管内皮を損傷することにあります。そして、高血糖による血管内皮損傷のメカニズムは3つあります。

一つ目は、「酸化ストレス」によるものです。高血糖そのものが酸化ストレスを増加させますし、高血糖によって発生させる活性酸素も酸化ストレスを増加させます。酸化ストレスの増加によって、弛緩と収縮を繰り返している血管内皮の機能が低下し、動脈硬化が生じます。

二つ目は、「終末糖化産物(AGE)」の影響です。過剰な血糖は糖化反応によって、血管内皮のコラーゲンなどのさまざまなタンパク質に付着します。付着した糖は変性して、アマドリ化合物になります。このアマドリ化合物と糖が結合し、AGEができます。このAGEが血管内皮を傷害します。

そして最後は、「間欠的な血糖値の急変化」です。血糖値の変動は、抗酸化システムの稼働を妨げるとされており、慢性的な高血糖より血管内皮を傷つける作用が強いとされています。特に、食後血糖値の急上昇(グルコーススパイク)とともに生じる、血糖値の急下降が危険だといわれています。

動脈硬化

高血糖が全身の血管を傷つけることは、一般の方でも知っていることです。これは炎症の関与が疑われています。まず、傷ついた動脈壁内に、単球が入り込みます。その単球が、コレステロールや他の脂肪性物質をため込むマクロファージ(飛沫細胞)に変化します。この飛沫細胞が蓄積し、アテロームが形成され、動脈壁の肥厚を引き起こします。

この動脈硬化が、微小血管系に生じ、糖尿病の三大合併症である腎症、網膜症、神経症が起こります。

迷走神経

迷走神経も、長い間高血糖にさらされると、微小血管の動脈硬化により障害を受けます。この迷走神経の障害は、頻脈、勃起不全、消化の問題(特に胃蠕動運動不全)を引き起こします。

検査方法は、心電図を用いてR-R間隔を検査するのが一般的である。しかし、理学療法の臨床では現実的ではないため、他の方法を用いる方が良いです。その方法は、呼吸時の心拍数の変化を見ることです。

正常に迷走神経が機能している場合、吸気時と比較して、呼気時の心拍数が減ります。しかし、糖尿病患者などで、迷走神経の機能低下が生じている場合は、この反応が起こりません。

筋骨格系

長期的な高血糖は、腱の糖化の原因となります。この不可逆的糖化は永久的なブドウ糖のタンパク結合によるものです。これは上述したAGEのことです。腱の糖化は、指のデュプイトラン拘縮、肩関節の拘縮、ばね指、手根管症候群、腸脛靱帯症候群などを引き起こします。

理学療法士としては、このような状態に遭遇することは多く、長期化した肩関節の拘縮などは血糖コントロール不全が原因である可能性があります。

以上のように、高血糖、血糖値の急変動は血管内皮を傷害します。そして、血管内皮が傷害されるとさまざま症状につながります。あなたが抱えている、治らない患者さんの問題は血糖値のコントロール不全にあるかもしれません。

ちなみに、HbA1cは一定期間の平均であるため、これだけでは血糖値のコントロールの状況は把握できません。