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理学療法士にとって、筋力は係わりが深いものです。以前の理学療法は、膝が痛ければ大腿四頭筋を鍛える、肩が痛ければ回旋筋腱板筋を鍛えるなど、痛い関節の周囲の筋をさらに強くし、痛みがでないようにする、というものだったと聞いています。

現在でも、このような考え方で行っている人はいると思います。確かに筋力は重要です。しかし、筋力に対して間違った考え方をしてしまうと、よかれと思って行っていた運動が、体を壊すきっかけになってしまうことがあります。

今回は、筋力に対する考え方について書きます。

筋力は重力環境下で生活するためには必須

人は重力環境下で生活しています。しかも、進化の過程で二足歩行になったため、より重力の影響を受けるようになりました。このような状態では、筋による体の支持が必須です。つまり、その人の体重に見合った筋力は最低限必要だということです。

重力環境下では、体には体重に見合った負担がかかります。その負担分を支持するだけの筋力がないと、体を支持することができません。そして、筋力は筋肉量と相関します。また、全身の筋肉量は、大腿四頭筋の筋肉量と関係しています。

つまり、大腿四頭筋の筋力は、重力環境下で必要な筋力があるかの指標になるということです。

筋力の低下ではなく活動量の増加が原因

筋力が身体にとって必要なことは、間違いないと考えています。勉強している理学療法士には、痛みの原因を筋力低下であると考えることが避けられる傾向にあります。しかし、筋力低下が原因で痛みが生じることは多々あります。

これは、筋力が低下したというより、もっている筋力以上の活動を行ってしまった結果、痛みが起こっている場合が多いです。いきなり筋力が低下することは、何かしらの器質的な要因がないと起こりません。しかし、急に活動量を上げることは多々あります。

例えば、今まで運動習慣がない80歳の女性が、筋力を鍛えるために毎日100回スクワットを始めたとします。これは明らかに、その人の筋力以上のことを行ってしまっているので、どこか体に変調が出るはずです。

若くても同様です。今まで筋トレなどをまったく行っていなかった20歳の男性が、いきなりベンチプレス100キロに挑戦します。この場合は、そもそも運動自体が不可能です。

以上の例は極端ですが、本当にこのようなケースは多いです。

加齢により身体機能は徐々に低下します。筋力も同様で低下します。80歳になっても、60歳のときと同じような生活をするためには、ものすごい努力が必要です。つまり、年齢やその人の今の身体能力に合った生活を送ることが大切です。

今の身体能力以上のことを行い、体に痛みが出ることは当然だと考えます。

筋出力という考え方

先ほど述べたように、筋力は通常、筋肉量と相関します。しかし、慢性疼痛の人はここに剥離が生じるとされています。

例えば、筋肉量は100キロのベンチプレスを10回行えるだけの量があったとします。通常では、100キロのベンチプレスを問題なく10回行えるのですが、慢性疼痛の人は行えません。

つまり、筋出力の抑制がかかっているということです。この場合は、筋肉量と筋出力は相関しません

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臨床で出会う多くの患者さんは、この筋出力の抑制がかかっています。このようなケースでは、いくら筋出力が抑制されている状態で、筋トレを行っても効果はでません。まず先に、筋出力の抑制の解除を行う必要があります。

この抑制の原因はさまざまであり、脊柱の柔軟性、骨盤帯の安定性、トリガーポイントなど色々考えられます。

以上のようなケースが多いため、最近、理学療法では筋トレは不必要という考え方が流行っているのです。

しかし、先ほど述べたように、筋力(筋肉量)が足りずに疼痛が出現する人はいます。つまり、大切なことは、その人の問題は、筋出力の抑制か筋肉量かということを的確に判断することです。

患者さんの多くは筋肉量と筋出力が剥離している

健常者において、筋力というものは筋肉量に依存しています。つまり、筋肉量が多いほど強い力が発揮できるということです。しかし、患者さんの多くは筋肉量と筋出力が比例していません。

例を上げて説明します。

通常、筋肉量が100ある場合、100の筋出力が出るとします。しかし、筋肉量と筋出力が剥離している患者さんの場合、筋肉量が100あっても筋出力が70しか出ていないという現象が起こってしまいます。

つまり、「筋出力の抑制」が起こってしまっているのです。

脊柱、筋膜に問題がある場合、「筋出力の抑制」が生じる

ではどのような場合に「筋出力の抑制」が生じるのかを説明します。

地球環境下では物理の法則が成り立ちます。その中でも「作用反作用の法則」というものがあります。これはある物体Aからある物体Bに対して力(作用力)が加わったとき、それと同じ力(反作用力)が物体Aに跳ね返ってくるというものです。

人間の体でも同様で、何かしら力を発揮した場合、発揮した部位に同等の力が反作用力として返ってきます。そして、この反作用力は体のどこかで吸収される必要があるのです。吸収できないような力を出してしまうと、体のどこかにその衝撃が集中し、その部位が壊れてしまいます。

そのため、人の体は壊れないように、吸収できる分の力しか筋力を発揮しないようになっているのです。つまり、発揮される力(筋出力)は吸収力に依存するということです

そして、体の中でこの衝撃吸収の役割を担うのが「脊柱」と「筋膜」になります。脊柱は、S字弯曲によりバネのように衝撃吸収を行い、筋膜はテンセグリティ構造を揺らす波として衝撃を吸収します。

筋出力の抑制が起こっている場合、筋トレは必要ない

以上のことより、「筋出力の抑制」が起こっている場合は、まずは、筋出力の抑制の改善が必須になります。筋力増強の運動を行うのはその後です。そして、筋出力の抑制を起こす原因となっている構造は、脊柱と筋膜であることがほとんどです。

そのため、筋力低下が生じている場合、「筋肉量が少ない」のか「筋出力が抑制」されているのかをはじめに考えなければなりません。「筋肉量が少ない」場合は「筋トレ」、「筋出力が抑制」されている場合は「脊柱と筋膜の正常化」をはかることが必要になります。

多くの患者さんは、筋出力が抑制されているため、大半のケースでは、筋トレの前に脊柱と筋膜の正常化をはかる必要があります。