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呼吸器疾患の痛みは、胸背部のみでなく、頚部、肩甲部、肩に放散します。そして、理学療法士が遭遇する症状の中にも、実は呼吸器疾患に由来した疼痛が隠れていることが多いのです。

そこで今回は、呼吸器疾患の症状の特徴について解説します。

呼吸器系の生理・病態生理学

疾患から起こる症状を理解する上で、その器官の生理学、病態生理学を学ぶことは有意義です。学生の頃は、疾患名とその特徴だけ暗記し、試験にのぞむ人が多かったのですが、臨床ではそうもいきません。臨床での範囲は決まっていませんし、いつどこに問題がある人がくるかわからないので、症状を暗記するのではなく、そのメカニズムを理解しておく必要があります。

メカニズムを理解し、応用することによって、多くの症状に対する理解が深まります。

そこで以下に、呼吸器疾患に関係する、呼吸器系の生理学と病態生理学について述べます。

呼吸器の生理学

呼吸器系の主な機能は、細胞への酸素供給と、細胞からの二酸化炭素の除去です。その手段として呼吸を使います。

呼吸は自動的なプロセスであり、延髄付近に位置する中枢化学受容器と、頚動脈小体、大動脈弓に位置する末梢受容器によって、平衡の崩れが感知されます。この平衡とは、酸-塩基平衡であり、後述するようにこの平衡は生命維持に不可欠です。

その感知したデータは、延髄の呼吸中枢に送られ、呼吸筋に換気を調整する指令が出されます。

中枢化学受容器は、二酸化炭素の増加および、脳脊髄液のpHの低下、末梢化学受容器は、動脈血の酸素低下に反応します。この酸塩基平衡は、非常に複雑で、細胞外液がpH7.35~7.45の範囲内で保たれなければなりません。pH7.35以下をアシドーシス、7.45以上をアルカローシスといい、pH7.0以下や7.8以上では生命維持ができません。

このように、酸-塩基平衡は生命にかかわってくるので、さまざまなシステムにより調整されています。そのシステムが、化学的緩衝システム、呼吸システム、腎システムになります。

つまり、呼吸器は生命維持に必要なシステムのうちの一つであるのです。

呼吸器の病態生理学

呼吸システムの崩れは、先ほど述べたようにアシドーシス、アルカローシス状態を引き起こします。

アシドーシスは、肺換気が低下し、二酸化炭素、水素、炭酸が残留し、濃度が増加することによって循環する水素量が多くなり生じます。換気が重度に障害されると、カリウムが細胞外液に移動し、循環している水素に置換されます。その結果、高カリウム血症および心臓病変を引き起こします。

アシドーシスを引き起こす病理としては気道閉塞(延髄損傷、腫瘍や異物、COPD、肺炎のような肺疾患)、表在換気の欠如(気胸や肺線維症)、呼吸筋力低下(脊髄損傷、ギランバレー症候群)、呼吸抑制剤の過剰投与などがあります。

症状は基本的に、低酸素、血漿カリウムの上昇により引き起こされます。

以下に臨床症状をまとめます。

・換気低下
・錯乱状態
・傾眠、意識障害
・発汗
・減速呼吸
・不穏
・チアノーゼ

一方、アルカローシスは、呼吸数の増加と呼吸の深さの増加によって、CO2と水素量が低下することで、pHの増加が起こり、生じます。

アルカローシスでは、CO2と水素の体外排出スピードが速くなります。腎臓がカリウムと交換される水素を一定に保っているので、腎臓にかかる負担が大きくなります。そのため、腎臓での血漿カリウムの喪失が増加し、不整脈、筋のテタニーと痙攣が起こります。

この病態の大半は、過換気によって引き起こされます。過換気は、神経原性、不安、痛みのような心理学的な問題、脳外傷や損傷によって起こります。痛みや不安による過換気の場合は、理学療法対象であり、痛みの原因の除去やリラクセーションによる不安軽減を図ります。

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痛みや不安がなくても過換気が継続する場合は、重篤な全身性障害に起因する可能性があるので、医者に紹介する必要があります。

以下に臨床症状をまとめます。

・過換気
・ふらつき、めまい
・顔面、手指、足趾の感覚脱出および痺れ
・失神

以上のように、呼吸器疾患でも、相互に作用することよって、腎臓障害に由来した症状を引き起こします。このように生理学的な知識を有し、応用できることは、患者さんをみていく上で必須になります。

呼吸器系疾患に由来した症状の特徴

呼吸器系疾患に由来した症状を以下に示します。

・呼吸運動により悪化する痛み
自己スプリングで軽減する痛み
・臥位により悪化する痛み
・中枢神経症状
・全身性徴候と症状

呼吸運動、自己スプリングによる疼痛軽減、臥位による疼痛の悪化

肺においても、壁側胸膜は痛み刺激に対して感受性が高く、臓側胸膜は感受性が低いです。また、気管、および太い気管支は迷走神経幹により支配されていますが、細い気管支および、肺実質は痛覚支配がありません。

呼吸器疾患による疼痛は、壁側胸膜に病変が及ぶと生じます。この胸膜痛は、2つの胸膜表面の摩擦によるもの、壁側胸膜の伸張に起因する肋間筋のスパズムによるものが考えられます。

横隔胸膜は、横隔神経と肋間神経の2つから支配されます。この横隔胸膜に由来した疼痛は、心疾患と同じようにC5-6分節領域に関連痛を生じるため、肩に痛みを感じます。これらの症状は、呼吸運動や咳、笑いにより、胸膜や横隔膜の運動が生じたときに悪化します。

臥位姿勢は重力の影響を取り除くため、内臓が上方に移動します。それにより、横隔膜に圧迫が加わり、横隔膜、下肺部の病的状態から関連痛が生じます。

さらに、障害側を下にした側臥位は、呼吸による胸郭の動きを制限するため、疼痛の軽減につながります。これを「自己スプリンティング」といいます。また、呼吸器疾患に由来した疼痛は、体位変換や体幹の関節運動により悪化しません。一方、肋間損傷や断裂などでは、体幹の関節運動で悪化します。

一側の呼吸運動の低下や消失

片側に起こる明らかな呼吸運動の変化は、呼吸器疾患を疑うべき所見だといえます。

中枢神経症状

肺腫瘍は長管骨、脊柱、肝臓、副腎に転移しやすく、実は50%程度の症例に脳転移が認められます。そのような場合は、筋力低下、筋委縮、頭痛、下肢の感覚脱出のような中枢神経症状が出現します。脳転移により中枢神経症状が出現するため、急に中枢神経症状が出現した場合は、肺腫瘍も疑う必要があります。

肺腫瘍は、腎臓、乳房、膵臓、大腸、子宮から転移しやすいため、これらの既往歴や家族歴の把握は重要です。

全身性徴候と症状

呼吸器疾患に伴う、全身性徴候と症状を以下に示します。

・食欲不振、吐き気、嘔吐
・不安、心配
・関節痛、筋肉痛
・尿便失禁、悪臭をともなう多量の便
・胸部痛
・慢性咽頭炎、喀痰をともなう咳、短い空咳、喀血、嗄咳、咽頭痛、喘鳴
・チアノーゼ、ばち指
・嚥下障害
・呼吸困難
・糞便様口臭
・倦怠感、疲労
・筋力低下
・起座呼吸、口すぼめ呼吸
・皮疹、色素沈着
・失神
・頻呼吸
・原因不明の体重減少

呼吸器疾患には、以上のような症状が認めらます。肩の痛みや中枢神経症状、筋力低下、倦怠感など、臨床でよく遭遇するような症状も多くあります。

あなたが担当している患者さんに、原因がわからない、上記のような症状を訴えている人はいるのではないでしょうか。そのような人は、もう一度、呼吸器疾患の関与を疑ってみる必要があります。