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理学療法士の慢性疼痛に対する関心は強く、認知行動療法という治療法も多くの人が聞いたことがあるのではないでしょうか。余談ですが、理学療法士には「認知運動療法」と「認知行動療法」の違いをわからず、「認知」というと「認知運動療法」を思い浮かべる人がいます。

しかし、この2つは全く別物で、認知行動療法は、認知してから行動までの過程で障害されているところを探し出し、そこを改善させます。一方、認知行動療法は、現在行っている行動の根底には「認知の歪み」があり、それを改善することによって、行動も改善するという考え方です。

今回は、認知行動療法について書きます。

認知行動療法の理論

まずは、この理論の第一原理として、「あなたの感情はすべてあなたの『認知』あるいは考えによって作られる」ということです。認知は、あなたが物をどう見るか、どのように受け止めるか、それに対してどのような行動をとるか、そしてどのように信じるかを規定します。

つまり、あなたの認識の仕方ひとつで、物事に対するとらえ方、行動が全く変わってしまうということです

例えば、このサイトを見ている人で、「面白い」と思ってみてくれている人もいるでしょう。一方で、「ここに書いてあることはインチキくさい」などと思って読んでいる人もいるでしょう。このように思うのはなぜでしょうか。ここに、あなた自身の認知の歪み、偏りがあるのです。「ネットに書かれていることは信頼できない」「エビデンスがないものは、臨床では使えない」など、偏った思考が、今のあなたの考え方を作っているということです。

そして、第二の原理は「憂うつな時には悪い方向ばかりでものごとを考える」ということです。

自分自身のことだけでなく、世の中全体を暗く考えてしまいます。さらに、自分の思っているように、事態は「実際に」ひどく悪いと確信してしまうのです。

過去についても未来についても、悪いことしか思い浮かびません。このような考え方は、絶望感を生み出します。
明らかに不合理な考え方なのに、これが事実で、しかも永久に続くと確信してしまいます。

そして、最後の第三の原理が「感情の混乱を引き起こすマイナスの考え方は、ほとんど常に認知の歪みを含んでいる」ということです。

これは、哲学的で治療的にも重要なものです。さまざまな、症状を引き起こしている原因は、認知の歪みであり、現実を正確に把握できていないことにあります。つまり、これらの症状は、貴重な人生の体験ではなく、空回りの産物、ニセモノの体験にすぎないということです。

以上が、認知行動療法の基本原理になります。つまり、認知行動療法は、問題の根底にある認知の歪みを改善させることが目的になります。

これは治療に役立つことはもちろんですが、あなたの普段の生活にも役立ちます。特に理学療法士の方は、一度考え直してみてください。あなたの固定観念で、患者さんや後輩、あなたが所属している団体以外の団体などを否定していませんか。その根底に、あなたの認知の歪みはありませんか。

SNSなどでも他人や他団体批判が多いと感じています。もちろん、ビジネスのためにわざと行っている人が大半ですが、その中にも「この人は、認知の歪みが起こっているのではないか」と思う人がたくさんいます。

慢性疼痛改善のために、患者さんの認知の歪みを改善させることは大切です。しかし、まずは、理学療法士自身の認知の歪みを改善させることが必要です。

認知の歪みを引き起こす原因

認知行動療法は、根底にある認知の歪みを改善し、行動の変容につなげる治療です。その認知の歪みとは何であるかを理解することは重要です。

マイナス思考はネガティブな感情につながります。つまり、まずはネガティブな感情がわいたら、その直前かその最中に何かマイナスな考え方はしなかったかを思い出すことが大切です。また、このマイナス思考は、あなたの生き方の一部になり根付いており、もはや自動的なものになっています。そして、このマイナス思考を生み出しているのが認知の歪みです。

以下に、認知の歪みを引き起こす原因について解説します。

全か無か思考

これは、ものごとを極端に、白か黒かどちらかに分けて考えようとする傾向のことです。このような考え方は、非現実的です。なぜなら、じんせいにおいて「完全に」○○である、などということはほとんどないからです。

世の中には「完全」ということは存在しがたいことです。このように中間色がなく、黒か白かで考える考え方は専門用語で「二分法思考」といい、多くの人の認知の歪みとなっています。

一般化のしすぎ

あることが一度あなたに起こったとすると、それが何度も繰り返し起こるように感じてしまうことです。

理学療法士ではよくありがちです。ある人に当てはまった治療法が、他の似たような症状の人にも当てはまるように感じてしまったり、勉強会で習ったことが、すべての患者さんに当てはまるように感じることと同じです。

心のフィルター

専門用語で「選択的抽象化」といい、特別製のレンズのついた眼鏡をかけて、世の中のポジティブなこと、明るいことを見えなくしてしまっている状態です。

マイナス化思考

最も、問題になりやすいのが、このマイナス化思考です。これは、何でもないことや良い出来事を悪い出来事にすり替えてしまう思考です。

このような考え方は、人生の豊かさを奪い、必要以上に悲しいものにしてしまいます。

結論の飛躍

これは、事実と違った悲観的な結論を一足飛ばしに出してしまうことで、「心の読みすぎ」と「先読みの誤り」に分けられます。

例えば、あなたが講義を行っている立場にあるとします。その講義中に、多くの生徒が眠っていたとき、実際は、クラスの皆で前夜にパーティーがあり、皆が寝不足の状態であったため、このような状態になっていたとします。
しかし、結論の飛躍をしてしまうと、事実の確認もせずに「自分の講義が退屈だからみんな眠っているのだ」などと飛躍して考えてしまうのです。

拡大解釈と過小評価

これもよく陥りやすい思考です。簡単にいうと、対象物を拡大して見たり、縮小して見たりしてしまうということです。

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これも理学療法士には、とくに多いです。同僚が、横のベッドで患者さんの症状を改善させているとき、あなたは自分の患者さんの症状を改善できなかったとします。このとき、実際は、横の患者さんはたまたま改善しやすい状態で、あなたの患者さんはすぐには改善できないような状態だったのかもしれません。

しかし、あなたは「同僚は腕が良く、自分は腕がないから理学療法士を辞めた方がいいのではないか」「そもそも自分の治療は患者さんを悪くしているのではないか」など、自分を過小評価したり、拡大解釈したりしてしまいます。

感情的決め付け

これは、自分の感情をあたかも事実を証明する証拠のように考えてしまうことです。

例えば、「私はダメ人間のように感じる。それが何よりダメ人間の証拠だ」というような考え方です。そもそも感情というのは、単に考えの反映にすぎないため、考え方が歪んでいると、感情には妥当性がなくなります。

すべき思考

これは、言葉の通りです。何かをやるときに「これはすべきだ」「これをしなければならない」と考えてしまうことです。このような考え方は、必要以上のプレッシャーを与え、自分自身を追い詰めます。

また、この考え方を他人に当てはめると、自分がフラストレーションを感じるようになります。対人ストレスの多くは、このすべき思考を他人に当てはめていることから生じます。

レッテル貼り

これは、間違った認知に基づいて完全にネガティブな自己イメージを作ってしまうことです。「極端な形の一般化のしすぎ」ともいえます。この背景にあるのは「人の価値はその人の犯す間違いによって決まる」という考え方です。失敗したり、負けたりした場合に、「失敗者」「敗北者」というレッテルを貼ります。

この考え方は、自己破壊的かつ不合理な考え方です。また、他人にレッテルを貼ると、たいていは敵意を巻き起こします。

個人化

これは、よくない出来事を理由もなく自分のせいにして考えてしまうことです。

例えば、子供の成績が悪かったことを、親が「これは私の責任だ。ダメな親だ」などと考えることです。
子供であろうが、自分は他人に影響は与えてはいますが、操作をしているのではありません。その人の行為の結果は、結局はあなたではなく、その人の責任です。他人のことまであなたが責任をとる必要はないのです。

認知に歪みがある方は、以上のうちのどれかに当てはまります。まずは、あなたや患者さんの認知の歪みは、どのような思考が原因かということを見つけだすことが、治療の第一歩になります。

自己評価の確立について

認知行動療法を行う際に、自己評価が低いことが多くの問題を引き起こしている原因であることが多いです。多くの憂うつな心の動きというものは、自己評価が低いところから起こるものです。

この自己評価の低さは、ネガティブな感情を引き起こし、慢性的な痛み行動につながります。

以下に自己評価の確立に向けて、その考え方について解説します。

自分の業績だけが人生に価値を与えているわけではない

この考え方は重要です。業績は満足をもたらしたとしても、幸福をもたらすことはありません。他人の称賛を基盤にした自己評価は、見せかけであって本物ではありません。

実際、社会的に成功している人の多くに、麻薬乱用者やうつ病の人などが見られます。テレビなどで成功しているようにみえても、実は、その裏では低い自己評価によって自己の正当な価値観をもつことができていないのです。容姿、才能、名誉、未来なども同様です。

そして、認知行動療法の基本の一つは、自分は価値がないという感情に巻き込まれるのを、阻止することです

自分は良くないんだと主張するとき、その主張にもっと深い目をもつことが大切です。その主張の中に隠れているのは、無意味なことが多いのです。

つまり、低い自己評価の裏には、認知の歪みに起因する不合理が潜んでいるということです。

低い自己評価の改善方法

精神療法の中には、不適切な感情を口に出すという方法があります。確かに、この方法は、胸の中にあるそのような感情を追い払うのに効果的です。しかし、これだけでは一時的な気分の高揚をもたらすだけで、十分ではありません

また、その人の問題の本質を見極め、それを指摘する人もいます。しかし、問題の本質を正しく指摘することは、反省は促すでしょうが、行動パターンまで変えることはできません。

以下は、あなたの考え方、感じ方、やり方にすみやかで決定的な変化をもたらすトレーニング方法になります。

 ・内面の批判的な声に反発すること
低い自己評価は、あなたの内面の自己批判的な声から生まれます。「自分はダメだ」「自分なんてくだらない」などといったものです。

これは段階を追って反発する必要があります。
1.自己批判的な考えが浮かんだとき、すぐに記録し視覚化する
2.このような考えが、なぜ歪んでいるのかを学ぶこと
3.もっと合理的な自己評価システムができるように、このような声に反発すること

以上の三段階です。
具体的には、自己批判的な思考(自動思考)、その原因である認知の歪み、そして合理的な反応の3つを横に並べて書き出すと、頭の中で整理しやすくなります。

 ・精神のバイオフィードバック
これは、心拍数などの精神的な変化に伴い起こる、体の変化を視覚化することです。これは、治療に対するあなたの体の変化を実感でき、より治療効果を高めます。

以上をまとめます。

・自動的なネガティブ思考に照準を合わせて、それらを紙に書き出す。
・認知の歪みの種類を把握し、その歪みをどう扱うかを学ぶこと。
・客観的な考え方を行うこと。

この3ステップを行うことが大切です。低い自己評価は、事実ではなく認知の歪みから生じる幻だということを頭に入れておいてください。その上で、今回記載したような行動を行うと、より効果的かと思います。

これは患者さんに対しても同様です。そして、多くの人が気づいていませんが、理学療法士の言葉が、患者さんの自己評価を下げてしまっている原因になっている場合があります。以上のようなことを知った上で、患者さんにかける言葉は慎重に選ぶ必要があります。

今回述べたように、理学療法士が認知行動療法を学ぶことは大切です・認知行動療法について理解しておくことで、慢性痛に対する理学療法士としての関わり方の幅を広げられるようになります。