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消化器系の病変による症状は、筋骨格系障害によって出現する症状と類似の症状が多いです。

そこで今回は、消化器系疾患の症状について解説します。

筋骨格系機能異常と類似した消化器系症状

理学療法の臨床において、患者さんが訴える症状の原因が消化管にあることは多いです。消化管症状は筋骨格系機能異常と類似します。消化管は、胸部、肩、肩甲部、中背部、腰部、股関節、骨盤、仙骨部に関連痛をもたらします。その中でも特に、肩、肩甲部、中背部の訴えは多いです。

筋骨格系に最も関連痛をもたらす腹腔内疾患は、粘膜の潰瘍や感染です。また、薬剤誘因性の消化管症状は薬物投与から6~8週間後にみられます。

ここからは、以下に示すような消化管に由来する症状について解説します。

・腹部痛、背部痛
・嚥下障害、嚥下痛
・下血
・背部に放散する上腹部痛
・食物によって影響される症状
・体重減少を伴う早期膨満感
・便秘、下痢、便失禁
・関節痛
・肩関節の関連痛
・腰筋膿瘍
・マックバニー点の圧痛

消化管症状

消化管系障害では、痛みや下痢、便秘などの症状が出現します。腸管由来の症状は、食物、アルコール、たばこ、カフェイン、薬物、ストレス、運動不足などにより変化します。

理学療法の臨床でよくみられる消化管症状を以下に示します。

 ・腹部痛、背部痛

腹部痛は内臓痛、背部痛は関連痛によるものから生じます。内臓痛は、腹部臓器の神経支配が両側性のため、正中にみられ、疼痛部位はデルマトームに一致します。神経終末が少ないため、痛みは限局的ではありません。

内臓痛覚繊維は、切断や断裂のような多くの刺激に対する感受性は低いです。一方、腫瘍、膨張、腸閉塞症やスパズムによる、内臓壁の伸長や緊張に対しては感受性が高いです。また、腹膜は痛みに対する感受性が低く、広範囲にわたる炎症や虚血を除いて、病変が壁側腹膜に至るまで、痛みを伴わないことがあります。

関連痛は、臓器からの求心性繊維の相当する体性領域に現れます。また、関連痛領域には皮膚、筋の痛覚過敏がみられることがあります。

通常は、内臓痛がみられた後に関連痛がみられますが、関連痛単独で生じることもあります。患者さんは、二つの症状を関連付けることができないため、理学療法士が気づくことが大切です。

臓器 神経 疼痛部位
肝臓、横隔膜、心膜 横隔神経 C3-5領域
胆のう、胃、膵臓、小腸 腹腔神経叢、内臓神経 T6-9領域と中背部、肩甲部
腸、虫垂、骨盤内臓 腸間膜神経叢、小内臓神経 T10.11
S状結腸、直腸、尿管、精巣 下部内臓神経、骨盤内臓神経 T11-L1 S2-4

 ・嚥下障害・嚥下痛

嚥下障害は、食道括約筋の過緊張、狭窄および腫瘍を伴う消化性食道炎が原因で生じます。また、アルツハイマーやパーキンソン病でも生じ、抗うつ薬、降圧剤、喘息薬などの薬物も嚥下障害をもたらします。

嚥下痛は、食道炎や食道スパズムが原因で生じます。食後痛は食道炎だけでなく、冠状動脈の虚血でも起こります。食道炎は垂直位で軽減するのに対し、心臓痛はニトログリセリンや背臥位で軽減します。

 ・背部に放散する上腹部痛

背部に放散する上腹部痛は、長期間経過している潰瘍が原因で、二次的にみられます。他のよくみられる症状としては、咽頭後部のにが味や酸味、腹部鼓腸、ガス、腹部不快感、胸やけがあります。胸やけに胸部痛、咳、呼吸困難を伴うときは、心臓疾患も考慮する必要があります。

 ・食べ物により影響される症状

胃潰瘍に伴う痛みは、食後30~90分に始まります。一方、十二指腸や幽門部の潰瘍は食後2~4時間後に起こります。また、十二指腸潰瘍の痛みは、夜中12時~3時までの夜間痛を訴えます。癌性疼痛も夜間痛を特徴としますが、癌性疼痛は強く、うんざりするような痛みで、食事により軽減しません。

 ・便秘

排便習慣の変化は、食事、喫煙、薬物の副作用、消化管疾患、腹壁外疾患、性格、気分(うつ)、ストレス、活動性低下など多くの要因で起こります。また、便の貯留は、仙骨神経を圧迫し、仙骨部、臀部、大腿部に痛みや不快感を起こします。

以下、便秘の原因として考えられるものをまとめます。

神経因性 筋性  機械的 直腸障害 薬、食事
多発性硬化症
脊髄腫瘍
脊髄癆
外傷性脊髄損傷
無緊張重度の栄養失調
代謝障害
甲状腺機能低下症
高カルシウム血症
カリウム枯渇
副甲状腺機能亢進症無活動
腸閉塞(腫瘍、腸捻転、鼓室炎)
消化管外腫瘍(妊娠を含む)
血栓性痔核直腸周囲膿瘍 麻酔薬
制酸剤
抗コリン作用薬抗痙攣薬
抗うつ薬
抗ヒスタミン薬
抗精神病薬
硫酸バリウム利尿薬

 ・関節痛

炎症性疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)では、しばしばリウマチ様の症状や仙腸関節炎を伴う脊椎炎がよくみられます。通常、消化管感染による関節痛は、無症候性、移動性、少関節性です。膝関節、足関節、肩関節、肘関節、手足の小関節は障害されやすい部位です。

また、随伴症症状として、発熱、倦怠感、皮疹、指床変化、虹彩炎、結膜炎などがみられます。

このような反応性関節炎は、腱および靱帯の付着部に炎症を起こします。また、腱鞘および滑液方にも炎症が生じます。

 ・腰筋膿瘍

腰筋膿瘍は、隣接する構造からの炎症や感染から生じます。通常、腰筋筋膜に限局しますが、股関節、大腿上部、臀部に広がることもあります。腰筋膿瘍は、鼓室炎、クローン病、骨盤炎症性疾患、虫垂炎のような腹腔内感染により生じることがもっとも多いとされています。

身体検査としては、収縮時痛、触診による塊、圧痛などを検査します。

以下、腰筋膿瘍の臨床徴候と症状を載せます。

・発熱、寝汗
・腹部痛
・食欲不振、消化管障害
・背部、骨盤、腹部、股関節、膝関節の痛み
・疼痛性跛行
・触診可能な、軟らかい塊

以上のように、消化管に由来した症状は、筋骨格系障害に由来した症状と類似しています。理学療法士として、それぞれの特徴を把握し、鑑別することが大切になります。

消化器疾患別の特徴

一言で消化器疾患といっても、疾患の種類はいくつもあります。

そこで以下に、代表的な消化器疾患である「消化性潰瘍」「虫垂炎」「膵炎」「炎症性腸疾患」「過敏性大腸炎」の特徴について記します。

消化性潰瘍

消化性潰瘍とは食道下部、胃、十二指腸の内面組織の欠損です。急性損傷は、糜爛(びらん)と呼ばれ、粘膜を通して広がりません。慢性潰瘍では、筋層に影響を与え、筋組織を破壊し、治癒部位では永続的な瘢痕組織に置換されます。

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胃潰瘍および十二指腸潰瘍の90%は、H.pyloriの感染によるものとされています。残りの10%は、NSAIDsの慢性使用によって引き起こされます。H,pylori潰瘍は、主に十二指腸の内面にみられ、NSAIDsによる潰瘍は、主として胃の内面、特に後壁でみられます。そのため、背部痛を伴うことが多いです。

潰瘍は放置すると、動脈を侵食し、出血や穿孔による感染の拡大につながり、生命を脅かす原因になります。

消化性潰瘍の主な症状は、胸やけ、灼熱感、しつこく続く痛み、筋痙攣、上腹部痛です。胃潰瘍は左側、十二指腸潰瘍は右側にみられることが多いです。痛みの特徴として、背部、右肩への放散痛、食物摂取との関連(酸の分泌)があります。

十二指腸潰瘍は、胃が空のときに痛みが著名になります。一方、胃潰瘍は食物が胃内にあるときに痛みを引き起こします

以下、消化性潰瘍の特徴をまとめます。

・食物摂取により悪化する、胸やけや上腹部痛(胃潰瘍)
・食物摂取、制酸剤、嘔吐により軽減する胸やけや上腹部痛(十二指腸潰瘍)
・夜間(0~3時)痛(十二指腸潰瘍)
・背部の放散痛
・胃痛
・右肩痛
・ふらつき、失神(血管侵食による出血)
・嘔吐、食欲不振、体重減少
・血便、黒色のタール様便(出血)

虫垂炎

虫垂炎は思春期および若年成人に好発します。虫垂炎は重症化すると、閉塞、炎症、感染が起こり、腹膜炎に陥るため、早期発見早期治療が大切です。似たような症状を呈する疾患に、クローン病、穿孔性十二指腸潰瘍、胆のう発作、右腎感染、子宮外妊娠破裂、卵巣嚢腫捻転、出血性排卵などがあります。

主な臨床症状は、吐き気や嘔吐後の疼痛、微熱です。子供では高熱がみられる傾向にあります。また、舌苔と口臭も特徴的な症状となります。

腹膜炎に陥ると、股関節、骨盤、側腹部に疼痛が出現します。これはマックバーニー点(ASISと臍の中間点)の圧痛にて判断します。腹膜炎がある場合は、反跳痛が認められます。

以下に臨床症状をまとめます。

・臍周囲、上腹部痛
・右下1/4腹部、側腹部痛
・右大腿あるいは睾丸の痛み
・腹筋のこわばり
・マックバーニー点陽性
反跳痛(腹膜炎)
・吐き気、嘔吐、食欲不振
・排尿困難(有痛性)
・微熱
・舌苔、口臭

膵炎

膵炎は、膵臓の酵素による自己消化に起因する膵臓の炎症です。急性膵炎、慢性膵炎がありますが、理学療法士は急性膵炎に遭遇することが多いようです。原因はさまざまで、アルコール中毒、糖質コルチコイドやザイアザイド利尿薬、アセトアミノフェンなどの物質の毒性により、急性発作が生じます。ウイルス感染も急性膵炎を引き起こします。

臨床症状としては、軽度の非特異的な腹部痛から始まり、数時間かけて増悪します。症状は数日~1週間以上続き、背部に放散します。痛みは歩行、臥位により悪化し、座位および前かがみによって軽減します。

慢性膵炎では、左上位腰部に関連痛がみられます。その他にも、食欲不振、吐き気、嘔吐、便秘、鼓腸、体重減少などが起こります。

以下、臨床症状をまとめます。

急性膵炎 慢性膵炎
・背部に放散する上腹部痛
・吐き気、嘔吐
・発熱、発汗
・頻脈
・脱力感、倦怠感
・黄疸
・背部に放散する上腹部痛
・左上位腰部痛
・吐き気、嘔吐
・便秘、鼓腸
・体重減少

潰瘍性大腸炎

定義では、「大腸および直腸の内面の炎症および潰瘍」となっています。この疾患は結腸癌との関連性も認められており、16歳以前にこの疾患にかかり、30年以上も罹患歴がある場合は、その発生率はかなり増加します。

主な臨床症状としては、直腸出血が認められます。左結腸が障害され、小腸は障害されることはありません。
また、強直性脊椎炎、貧血、ばち指などがときどき認められ、理学療法士はその違いを見抜く必要があります。

クローン病

クローン病は、小腸、結腸の終端部に好発しやすい疾患ですが、口から肛門まで、消化管のいたるところに生じる可能性があります。若年成人や思春期に多いですが、年齢層も幅広く発症します。

臨床症状としては、回腸終端部の障害は、臍周囲、腰部に放散する関連痛、回腸の痛みは右下1/4腹部に感じ、股関節痛を引き起こします(腸腰筋膿瘍)。そしてその症状は、排便後や放屁後に軽減します。症状は、ゆっくりと進行し、診断される前は、軽度の間欠的な症状がみられる程度のことが多いようです。

一方で、急性炎症を生じることもあります。また、膿瘍やリウマチのような症状を伴う発熱が起こることもあります。

また、クローン病の25%の人に関節炎や移動性関節炎が認められます。単関節炎は足関節、膝関節が障害されることが多いですが、肘、手関節も障害される場合もあります。多発性関節炎や仙腸関節もよくみられ、稀に強直性脊椎炎に至ることもあります。

以下に、炎症性腸疾患の、臨床症状の特徴をまとめます。

・下痢、便秘
・発熱
・腹部痛
・直腸出血
・寝汗
・食欲低下、吐き気、体重減少
・皮膚損傷
・ぶどう膜炎
関節炎
移動性関節炎
・股関節痛(腸腰筋膿瘍)

過敏性腸症候群

過敏性腸症候群は、小腸と大腸の運動機能障害です。これは西側社会によく見られる消化管障害で、下部消化管専門医への紹介の50%に相当するとされています。また過敏性腸症候群は、腸の構造的変化とは関係ないため、機能的な問題とされています。

心理的要因が大きく関与するとされており、ストレスに対する情緒的、心理的反応が脳の化学的性質に大きな影響を与え、それにより腸の神経系に影響を及ぼします。逆に、中枢神経系からの指令は、複雑な神経ネットワークによって、腸で処理されます、

臨床症状としては、嘔吐、食欲不振などその他、多様な消化管症状がみられます。腸の器質的疾患では夜間の下痢がみられ、睡眠を障害しますが、この疾患では夜間の下痢は起こりにくいです。

典型的な疼痛パターンは左下1/4腹部痛、便秘、下痢です。これらの一次性の症状は、ストレス、喫煙、食事、アルコール摂取によって腸運動が障害された際に悪化します。

以下に臨床症状をまとめます。

・腹部の有痛性痙攣
・便秘、下痢
・吐き気、嘔吐
・食欲不振
・鼓腸
・口臭

以上のように、炎症性腸疾患にはリウマチ様の関節症状が出現します。その場合、腸症状や腸運動との関連性を問診で聴取し、鑑別を行う必要があります。

今回述べたように、消化器系疾患で出現する症状には筋骨格系機能障害と類似したものがたくさんあります。理学療法士は、消化器系疾患と筋骨格系機能障害を鑑別できることが大切です。