骨盤疾患は理学療法の臨床でもよく遭遇し、最近は骨盤の重要性が取り上げられているので、特に興味を持っている人が多いのではないでしょうか。
そこで今回は、骨盤痛を引き起こす全身性疾患について書きます。
骨盤痛を引き起こす疾患
骨盤疾患は原発性の骨盤痛と、腰部、大腿部、鼠径部、直腸への関連痛を引き起こす可能性があります。通常、骨盤疾患は吐き気、嘔吐、発熱、腹痛を伴い、突然発症する激しい痛みがみられる急性疾患として出現します。
骨盤痛を引き起こす組織
骨盤痛は、自律神経(Th11-S3)刺激により引き起こされる内臓痛、陰部神経(S2.3)の刺激により起こる体性痛、腹膜痛によって生じます。
そして、腹膜痛は膀胱上部1/3、子宮体、直腸上1/3、直腸S状結腸移行部をカバーする臓側腹膜を支配する自律神経の刺激により起こります。その神経は触覚に対する感受性はありませんが、牽引、拡張、スパズム、虚血に対して反応します。
また、臓側骨盤腹膜は、骨盤外側壁の上1/2と仙骨腔の2/3をカバーし、体性神経によって支配されます。そのため、臓側骨盤腹膜の有痛性の刺激は、この体性神経レベルの関連痛、および腸腰筋、前腹壁筋群のスパズムを誘発します。
実際に痛みを引き起こす原因は「筋骨格系」「癌」「血管病変」「腎臓・泌尿器病変」「消化管病変」「婦人科疾患」が挙げられます。
筋骨格系由来の骨盤痛
筋骨格系由来の骨盤痛は、エクササイズ、過重により悪化し、安静、ストレッチやトリガーポイントリリースにより軽減します。
筋骨格系に関連した骨盤痛は、股関節、仙腸関節、仙骨、腰部からの関連痛で起こります。同様に、骨盤疾患も腰部、鼠径部、大腿部への関連痛を引き起こします。前骨盤痛は股関節、上位腰椎、恥骨結合、股関節前方の筋群、大腿神経、腰筋膿瘍の問題により生じ、後骨盤痛は腰仙椎、仙腸関節、尾骨、仙骨領域の問題により生じます。
また、肛門挙筋症候群、緊張性筋肉痛は、直腸・膣・直腸周囲領域・腰部における痛み、圧迫感、不快感を引き起こし、椎間板性の症状と似ています。
以下、その中でも例を挙げて、特徴を示します。
前骨盤痛 | ・恥骨結合痛 妊娠 外傷性のストレス反応(ジョギング、軍人、競技者、妊 婦) 体肢の自動運動、深部圧迫、荷重負荷により悪化・大腿ヘルニア 骨盤外側の痛み 大腿内側から膝にかけての関連痛 |
後骨盤痛 | ・仙腸関節 臀部、大腿後面の痛み 骨盤に対する腰椎の回旋で悪化・肛門挙筋症候群 出産外傷 腰仙髄部の神経学的異常 性的暴力、性的外傷 肛門性交 性交中、排便痛の痛み 排便・排尿障害 |
癌
骨盤は、骨盤内原発性癌の不完全切除後、骨盤腫瘍の外科的切除や放射線療法後の癌の再発、腹腔内からの転移により、悪性腫瘍組織が蓄積されやすい部位です。代表的なものとして、卵巣癌、結腸・直腸腫瘍が挙げられます。
骨盤内の深部痛は、仙骨神経叢への癌の広がりを示唆している可能性があります。
特徴に関しては、他の癌と同様です。
心血管病変
腸骨動静脈、卵巣静脈のアテローム性硬化や血栓により骨盤痛を生じます。
以下にその特徴を示します。
動脈障害 | 静脈障害(術後の血栓症) |
・患側下肢、臀部の疼痛 ・運動により悪化 ・患肢の蒼白 ・感覚低下、脈拍減弱 |
・肥大した、温かい、有痛性の下肢 ・骨盤の不快感*卵巣静脈瘤 ・一日中、長時間の立位で悪化 ・夕方に悪化 ・性交後の疼痛 ・骨盤の鈍重感 ・別部位の静脈瘤 |
腎臓・泌尿器病変
膀胱、腎臓の感染、腎結石、腎不全、尿道平滑筋のスパズム、腫瘍は骨盤痛を引き起こす原因になります。これらは、筋骨格系の機能異常による症状と類似しています。また、これらの病変により骨盤底筋が緊張し、痛みを誘発するケースもあります。
上記の病変は、側腹壁周囲から下腹部、生殖器、大腿前内側へ放散する疼痛パターンを示します。
これらの多くは、明らかな症状を呈するため、器質的問題として見つかります。しかし、見逃される場合もあります。理学療法士としては、既往歴、排尿時の疼痛、排尿パターンの変化、発熱・悪寒・発汗、吐き気、嘔吐などの全身性症状に注意しなければなりません。
消化管病変
小腸、結腸、直腸疾患は骨盤痛を引き起こす原因になります。これらは、婦人科疾患により、影響を受けます。その場合は、直接的な腫脹、感染、漏出した血液、月経体液、感染した物質への反応による圧迫や体位変換に関連して症状が変化します。
基本的には腸管機能に変化が認められますが、間欠的な場合があるため、患者さんは気づいていないことが多いです。具体的な疾患としては「クローン病」「過敏性腸症候群」などが挙げられます。
以下に、その特徴を示します。
クローン病 | 結腸疾患 | 過敏性腸症候群 |
発汗、間欠性の発熱 倦怠感、貧血 関節痛 腸管症状 |
50~70歳代に好発 間欠性の症状 左下腹部、骨盤左側の疼痛 下痢、便秘 便中の粘液 直腸出血 |
食欲不振、おくび 腹部膨満感 腸管変化を伴う、持続性の仙痛性の下腹部痛、骨盤痛 |
婦人科的病変
婦人科疾患は先天異常、炎症過程(感染を含む)、子宮腟脱、腫瘍、妊娠、月経困難症、子宮内膜症、Gynecalgiaにより、骨盤痛を引き起こす可能性があります。Gynecalgiaとは、慢性骨盤痛で、病理的な原因が特定されるが、身体的原因が不明のままである骨盤痛をに使われる用語です。
腹膜への感染や炎症は、壁側腹膜を障害します。これらは腹圧の増加(咳、歩行など)により増悪します。
以下によく見られる、子宮腟脱、月経困難症、子宮内膜症、Gynecalgiaの特徴を示します。
子宮腟脱 | ・持続性の骨盤痛 ・中心性の恥骨、鼠径部痛 ・安静、臥位により症状軽減 ・座位、歩行、咳、性交により悪化 ・解剖学的構造、妊娠・出産、閉経後のホルモン欠乏、全身の筋力低下 ・肥満、慢性の咳、便秘は障害を助長する ・骨盤内腫瘍、坐骨神経障害により二次的に生じる場合もある |
月経困難症 | ・下腹部、骨盤、大腿、腰部への放散痛 ・頭痛 ・断続的な筋痙攣様の痛み ・易刺激性 ・うつ、疲労、消化管症状 |
子宮内膜症 | ・出産年に好発 ・不妊症の50%にみられる ・閉経後に寛解 ・直腸、下部仙骨、尾骨領域の痛み ・月経開始前後に始まり、出血の終了に伴い治まる ・悪化すると周期的ではなく、一定になる ・排便中の直腸の不快感、下痢、便秘、反復性流産、不妊症 |
Gynecalgia | ・下腹部、骨盤、鼠径部、大腿上内側 ・曖昧で局在性がはっきりしない ・性交痛、月経変化、腰痛、排尿・排便変化、疲労、うつ |
その他にも、心因性、骨盤帯の手術でも骨盤痛を引き起こします。
以上のように、骨盤痛はさまざまな疾患により引き起こされます。少し多いですが、最低限、以上の知識は頭に入れて、臨床に臨む必要があります。