理学療法士として、糖尿病を代表とする代謝系疾患を患った患者さんを担当することは多いのではないでしょうか。外来では、糖尿病に対する運動療法がメインで処方されることはほとんどありません。しかし、内分泌、代謝系は、身体治癒に大きく関与しており、外来整形で遭遇するさまざまな症状の原因になり得ます。
あなたの患者さんで、肩関節の拘縮が起こっている人、なぜか治りが遅い人はいませんか。その患者さんたちは糖尿病などの代謝性疾患は患ってないでしょうか。もしかしたら、その患者さんが治らない原因は、代謝性疾患にあるかもしれません。
今回は、この内分泌、代謝性疾患の特徴と症状について解説します。
目次
内分泌系、代謝系に関係する神経筋骨格系の徴候
神経筋骨格系は結合組織から構成され、その成長、発達は、種々のホルモンおよび代謝プロセスにより影響を受けます。これらのコントロールシステムが変化すると、結合組織のさまざまな構造的、機能的変化がみられ、全身性および筋骨格系の徴候を引き起こします。
筋力低下、筋肉痛、疲労
甲状腺、副甲状腺疾患、末端肥大症、糖尿病、クッシング症候群、骨軟化症の初期症状でみられます。無痛性であり、近位筋に生じることが多いです。また、これらの症状は、疾患の重症度とは無関係です。
両側性手根管症候群
これは、多くの全身性および筋骨格系の状態においてみられますが、特定の内分泌疾患や代謝性疾患にみられることが多い所見です。手根横靱帯の肥厚、内容量の増加(腫瘍、カルシウム、痛風結節の沈着など)などで、正中神経が圧迫されます。
また、閉経期や閉経期近くの女性に多いという事実から、手関節の軟部組織は、何らかの方法でホルモンにより影響を受けていることを示唆しています。
関節周囲炎と石灰化沈着性腱炎
内分泌疾患のある人の肩関節に、関節周囲炎と石灰沈着性腱炎がみられることが多いです。また、糖尿病では癒着性関節包炎が生じやすくなります。
軟骨石灰化症
軟骨石灰化症の5~10%に内分泌疾患や代謝性疾患が認められます。これらは、痛風様症状の発作を伴うことがあり、その場合は偽痛風とよばれます。
脊椎関節症と変形性関節症
ヘモクロマトーシス、組織褐変症のような内分泌性疾患や代謝性疾患に、脊椎関節症と変形性関節症が起こります。
手のこわばりと手の痛み
手根管症候群を伴うことが多く、甲状腺機能低下症では屈筋腱滑膜炎がみられる。これも、内分泌性疾患、代謝性疾患に多くみられる徴候です。
以下、内分泌機能異常の徴候と症状をまとめます。
神経筋骨格系症状 | 全身性症状 |
・関節リウマチに伴う徴候と症状 ・筋力低下、筋委縮、筋肉痛 ・疲労 ・手根管症候群 ・滑膜の変化 ・関節周囲炎 ・癒着性関節包炎 ・軟骨石灰化 ・脊椎関節症、変形性関節症 ・手のこわばり、関節痛 |
・過成長、成長遅延 ・多渇、多尿 ・精神変化(神経質、錯乱、うつ) ・毛髪の変化 ・皮膚色素の変化 ・体脂肪分布の変化 ・バイタルサインの変化 (体温、脈拍、血圧の上昇) ・心悸亢進 ・発汗の増加 ・脱水、水分の過剰な貯留 |
以上のように、内分泌系疾患や代謝性疾患は、理学療法士が普段よく遭遇するような症状を引き起こします。
個人的には、治癒反応を遷延させるという意味で、代謝性疾患はかなり重要だと考えています。特に、現代社会では生活習慣が乱れており、診断を受けてなくても代謝系に問題があることが疑われる患者さんは多いです。治りが遅い患者さんや症状の原因がわからない患者さんを担当している方は、一度、代謝系の影響を考慮してみてください。
下垂体・副腎の影響
内分泌器官として、下垂体、副腎、甲状腺、副甲状腺、膵臓が挙げられます。これらが、一次的、もしくは二次的に障害されると、全身にさまざまな影響を及ぼします。
以下に、下垂体、副腎が身体に及ぼす影響について解説します。
下垂体
下垂体は、前葉から成長ホルモン、プロラクチン、甲状腺刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモン、中葉からメラニン細胞刺激ホルモン、後葉からバソプレシン、オキシトシンなどのホルモンを放出します。この中でも、バソプレシンと成長ホルモンの影響について書きます。
・バソプレシン
バソプレシンは抗利尿ホルモンであり、遠位尿細管を刺激し、水分の再吸収を引き起こします。もし、このバソプレシンの分泌が低下すると、尿崩症が起こります。これは、家族性、特発性などの一次的に、または下垂体の外相や腫瘍、動脈瘤などの影響で二次的に起こったりします。
尿壁症で注意することは、脱水です。
一方、バソプレシンは過剰、不適切に分泌されると、逆に体内に多くの水分が貯留し、細胞浮腫が起こります(水中毒)。この原因は、感染、外傷、腫瘍による下垂体損傷、ある種の悪性腫瘍からのバソプレシン様物質の分泌、肺や心臓、あるいは両者の圧受容器の圧迫によるものがあります。
臨床症状としては、神経学的徴候と症状が主であり、これは脳組織の浮腫と神経筋組織のナトリウム変化に直接的に関連します。
以下、臨床症状をまとめます。
・頭痛、意識混濁、傾眠
・排尿量の減少
・浮腫を伴わない、視認できる体重増加
・痙攣、筋痙攣
・嘔吐・下痢
・血清ナトリウムの低下
・成長ホルモン
成長ホルモンの過剰分泌は、末端肥大症を引き起こします。これは、下垂体腫瘍が原因で起こることが多いです。成人では、長管骨の成長は止まっているため、顔面、顎、手、足の骨が最も影響を受けます。
臨床症状としては、骨の肥大、手のこわばり、手根管症候群、背部痛などがみられます。
以下、臨床症状をまとめます。
・骨の肥大
・無月経
・糖尿病
・発汗過多
・高血圧
・手根管症候群
・手のこわばり
・背部痛
副腎
副腎は外側の皮質と内側の髄質から成ります。皮質からは鉱質ホルモン、グルココルチコイド、アンドロゲン、髄質からはエピネフリン、ノルエピネフリンが分泌されます。副腎の病態には、機能障害による分泌低下と分泌過剰の状態があります。
・分泌低下
このケースは「アジソン病」といわれます。臨床症状としては、皮膚および粘膜における色素沈着が最も目立った身体所見になります。これは、副腎の機能障害によって、副腎皮質刺激ホルモンの分泌増加に関連して起こる、メラニン細胞刺激ホルモンの過剰分泌の影響で起こります。
副腎皮質刺激ホルモンは、障害された副腎を刺激して、より多くのコルチゾールを産生、分泌させようとするため、増加します。
また、副腎機能低下は、下垂体の副腎皮質刺激ホルモンの分泌低下によっても起こります。これは、腫瘍や下垂体摘出、コルチコステロイド剤の急激な使用中止などにより起こります。
以下、副腎機能障害の臨床症状をまとめます。
・皮膚の暗色の色素沈着と瘢痕
・低血圧(起立性低血圧)
・進行性の疲労(安静により改善)
・高カリウム血症
・消化管症状(食欲不振、体重減少、吐き気、嘔吐)
・関節痛、筋肉痛
・腱の骨化
・低血糖症
・分泌過剰
このケースは「クッシング症候群」といわれます。これは、副腎皮質によるコルチゾールの分泌過剰を示す用語です。体外からコルチコステロイドが投与されたとき、下垂体刺激により、副腎皮質ホルモンの分泌が過剰になったときに起こります。
体外からコルチコステロイドが投与された場合、血中コルチゾールの増加がネガティブフィードバックの引き金となり、副腎刺激を中止します。このとき、副腎萎縮が生じ、副腎機能障害が起こります。そのため、コルチコステロイドは徐々に減少させ、正常な副腎機能を回復させる必要があります。
コルチゾールは臨床的に、結合組織への影響が大きいです。コルチゾールの過剰な分泌は、タンパク質の分解を引き起こします。その影響として、創傷治癒遷延、全身筋力低下、骨粗鬆症などが生じます。このタンパク質分解により、グルコースが過剰になります。そのグルコースは主として脂肪に変換され、体の特定部位に現れます。
理学療法士としては、コルチゾールの循環レベルの増加が、特に筋に影響することを頭に入れておく必要があります。
以下、臨床徴候をまとめます。
・脂肪組織の蓄積
満月様顔貌
頚部のバッファロー瘤
尖腹
・タンパク質の分解
筋委縮、筋力低下
骨密度の低下(脊椎後弯、背部痛)
紫斑
創傷治癒の遷延
・その他
精神、情緒障害
性機能低下
男性、女性化
以上のように、下垂体、副腎の機能障害はさまざまな身体症状を引き起こします。その中でも理学療法士として、血圧、筋、創傷治癒などへの関与は大きく関係します。内分泌系も、普段あなたが接している患者さんの問題点に、何かしらの影響を与えているかもしれません。
甲状腺疾患
甲状腺からは主に、サイロキシン(T4)、トリヨードチロニン(T3)、カルシトニンが分泌されます。T3、T4は主に身体の代謝速度を調整し、タンパク質の合成を促します。一方、カルシトニンは、強くはありませんが、カルシウムとリンのバランスに対して効果をもちます。
甲状腺の機能は、甲状腺内の内在性の調整だけでなく、視床下部と下垂体からも調整を受けています。甲状腺も機能亢進症と低下症があり、それぞれ特徴的な臨床症状を呈します。
甲状腺機能亢進症
過剰な甲状腺ホルモンは、身体全体の代謝を高めます。70歳以上では頻脈、疲労、体重減少の3つが特徴的です。一方、50歳以下では、頻脈、反射亢進、発汗過多、暑さに対する耐用力低下、疲労、振戦、緊張感、多喝症、脱力、食欲亢進、呼吸困難、体重減少などさまざまな症状がみられます。
また、甲状腺機能亢進症には慢性関節周囲炎がみられます。これは、内分泌疾患には多くみられ、関節周囲や腱の石灰化が多く認められます。肩に好発しますが、手やその他の関節にも起こります。
さらに、近位筋の筋委縮も約70%に認められます。通常、筋力は約2ヶ月で回復しますが、委縮の回復は緩徐であり、重篤な場合には、正常に戻るのに数か月かかります。
以下、臨床徴候についてまとめます。
中枢神経系 | ・振戦 ・多動 ・神経質 ・情緒不安 ・筋力低下、委縮 ・深部腱反射亢進 |
心血管・呼吸器系 | ・頻脈、動悸、不整脈 ・呼吸筋力低下 |
関節・外皮系 | ・慢性関節周囲炎 ・毛細血管拡張 ・温熱耐用性低下 ・抜け毛、はげ ・かゆみ、紅斑 |
目 | ・外眼筋の筋力低下 ・光に対する過敏症 ・視力障害 |
消化器系 | ・代謝亢進 ・下痢、吐き気、嘔吐 ・嚥下障害 |
泌尿生殖器系 | ・多尿症 ・無月経、不妊娠 |
甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症は、全身の代謝が低下します。主な臨床症状としては、寒冷耐容性低下、過度の疲労、嗜眠状態、頭痛、体重減少、皮膚の乾燥、爪の脆弱化、月経出血などが認められます。
他の特徴的な徴候として、粘液水腫があります。これは、真皮と他の組織の組成変化の結果であり、ムコ多糖体とタンパク質の増加によって、結合組織の分離が生じます。特に、目のまわり、手、足、鎖骨下窩に非陥没性浮腫を引き起こします。
粘液水腫が生じている場合、滑液にもその特徴が現れます。それは、液体内にピッリンサインカルシウム結晶(CPPD)の蓄積が認められるということです。この、CPPDは急性の偽痛風発作を起こすことがあります。
また、甲状腺機能低下症では、神経筋症候群がよくみられます。手根管症候群はその代表例ですが、これは、手根管部における粘液水腫の結果だと考えられています。近位筋の筋力低下もよくみられます。筋力低下は重症度とは関係なく、診断される数か月前にみられることもあるので、理学療法士が最初に発見するかもしれません。
さらに、代謝の低下は、筋の痛み、攣縮、トリガーポイントの永続化させる可能性があります。
以下、臨床徴候についてまとめます。
中枢神経系 | ・言語不明瞭、嗄声 ・精神機能抑制 ・疲労、睡眠増加 ・頭痛 ・小脳失調 |
筋骨格系 | ・近位筋の筋力低下 ・筋肉痛、トリガーポイント、こわばり ・手根管症候群 ・深部腱反射遅延 ・異常感覚 ・筋、関節浮腫 ・背部痛 ・骨密度の増加 |
呼吸器系 | ・呼吸筋力低下 |
心血管系 | ・うっ血性心不全 ・末梢循環の低下 ・アテローム性動脈硬化症 ・狭心症 |
血液系 | ・貧血 ・紫斑 |
外皮系 | ・粘液水腫 ・乾燥肌 ・寒冷耐用性低下 ・手足の非陥没性浮腫 ・創傷治癒遅延 |
消化器系 | ・食欲不振 ・便秘 ・体重増加 ・栄養吸収の低下 |
副甲状腺疾患
副甲状腺は、甲状腺の後面に位置しています。副甲状腺ホルモンを分泌し、カルシウムとリンの代謝を調整しています。
副甲状腺機能亢進症
副甲状腺機能の亢進は、カルシウム、リン酸塩、骨代謝を阻害します。主な症状は、骨カルシウムの血流中への遊離に関係しています。主な原因としては、副甲状腺腫瘍ですが、腎不全によっても低カルシウム血症を引き起こし、その結果、副甲状腺機能の亢進が生じます。
臨床症状としては、身体のさまざまな部位に影響を及ぼしますが、近位筋の筋力低下および疲労はよく見られる所見です。
また、消化管などにも影響します。その中でも特に注意が必要なのが、腎臓へのダメージです。カルシウムの蓄積により、びまん性の腎損傷を引き起こす可能性があります。
以下、臨床徴候をまとめます。
中枢神経系 | ・無気力、傾眠、異常感覚 ・精神活動低下、記憶力低下 ・うつ、性格変化 ・深部腱反射亢進 ・グローブ、ストッキング様の感覚消失 |
筋骨格系 | ・近位筋の筋力低下、筋委縮 ・骨の脱石灰化(骨痛、病的骨折) ・痛風、偽痛風 ・手の関節痛 ・下肢の筋痛および鈍重感 ・関節の過可動性 |
消化器系 | ・消化性潰瘍 ・膵炎 ・吐き気、嘔吐、食欲不振 ・便秘 |
泌尿生殖器系 | ・腎結石 ・高カルシウム結晶 ・腎感染 |
副甲状腺機能低下
副甲状腺機能低下は手術や損傷の結果生じることが多いです。希に、遺伝性の自己免疫破壊に起因することもあります。臨床症状としては、低カルシウム血症による筋力低下、疼痛、神経筋の易刺激性が特徴的です。この易刺激性は筋スパズム、異常感覚、不整脈を引き起こします。
以下、臨床徴候についてまとめます。
中枢神経系 | ・性格変化(易刺激性、興奮、不安) |
筋骨格系 | ・低カルシウム血症(神経筋の易刺激性) ・肋間筋、横隔膜のスパズム |
心血管系 | ・不整脈、心不全 |
外皮系 | ・乾燥肌 ・皮膚感染 ・毛髪、眉毛、まつ毛の希薄化 ・爪の脆弱化 |
消化器系 | ・吐き気、嘔吐 ・便秘、下痢 ・腹痛 |
以上のように、甲状腺、副甲状腺は身体のさまざまな部位に影響を及ぼします。特に注意する症状は、近位筋の筋力低下です。この症状は、さまざまな全身性疾患に認められるため、他症状と合せて、原因を考えていく必要があります。
糖尿病
糖尿病は多くの人が患っている、内分泌系の疾患です。理学療法士も、この糖尿病を患った人と接することは多いです。糖尿病には生命を脅かすような問題と、そうでない問題があります。生命を脅かす問題に関しては、リスク管理として、ある程度の知識を有している人は多いです。
一方、その他の問題は命にまでは関わらないためか、あまり細かい知識を有している人は少ないです。しかし、この後者の問題が、患者さんの訴えを引き起こしていることが多いのです。
以下に、糖尿病の特徴について述べます。
概要
糖尿病は、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの分泌、作用低下から生じるものです。高血糖や炭水化物、脂質、タンパク質代謝の障害を特徴とします。これらの障害によって生じる、大小血管の障害が、糖尿病の合併症を引き起こします。
糖尿病には1型と2型があり、前者は遺伝的、若年発症、自己インスリン産生能力の欠乏、後者は35歳以上の発症、自己インスリン産生能力の残存などの特徴があります。
病理
インスリンの分泌や作用不足は、身体にさまざまな影響を与えます。インスリンの作用として、末梢細胞での糖の取り込み、肝臓での糖の取り込み、細胞内へのアミノ酸の取り込みなど、身体への栄養物の取り込みに関わります。しかし、この作用ゆえに、過剰なインスリンは、過剰な脂肪合成、つまり、肥満を引き起こしてしまいます。
糖尿病は、このインスリンの分泌、作用に問題が起こることにより発症します。その問題点は、血糖の肝臓・末梢細胞での取り込み不足による「高血糖」、アミノ酸の取り込み不足による「タンパク質合成障害」、エネルギー不足のための「過剰な脂肪分解」、脂肪分解によって生じる「過剰なケトン体形成」になります。
高血糖は、酸化ストレス、糖化現象により血管内皮の損傷を引き起こします。それだけではなく、高張性の状態になるため、浸透圧性利尿が生じ、多尿、口渇も引き起こします。そして、腎臓のグルコースの再吸収能力が低下し、尿中に糖が混ざってしまうということです。
また、経口コルチコステロイドなどの特定の薬は、高血糖を引き起こします。
急性合併症
突然の発症で生じる合併症の代表に、低血糖があります。これは、インスリンや経口血糖降下薬の影響により、急激に血糖値が低下してしまった状態です。低血糖状態は、神経組織の酸素消費を阻害します。
理学療法士が注意しなければいけないのは、運動後の低血糖症状です。運動により、血糖が使用されると、低血糖状態になりやすくなります。また、β遮断薬は低血糖のリスクを上げる薬剤ですので、この薬剤の服用状況の確認も大切です。
以下、低血糖の臨床徴候をまとめます。
交感神経性の活動 | 蒼白 発汗 心拍数増加 動悸 易刺激性 筋力低下 空腹 震え |
中枢神経活動 | 頭痛 視力障害 言語不明瞭 疲労 口唇・舌の感覚脱出 意識障害 痙攣・昏睡 |
発症は急ではありませんが、重度の高血糖状態は、他にも主に2つの生命を脅かすような代謝病変を引き起こします。それは糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)と高血糖性高浸透圧性非ケトン性糖尿病昏睡(HHNC)です。
以下にこの2つの臨床症状をまとめます。
糖尿病性ケトアシドーシス
・咽頭の渇き
・過換気
・果香の息
・無気力、意識障害
・昏睡
・筋、腹部の痙攣
・多尿、脱水
・顔面紅潮、乾燥肌
・体温上昇
高血糖性高浸透圧性非ケトン性糖尿病昏睡
・咽頭の渇き
・多尿
・重度の脱水
・無気力、意識障害
・痙攣
・昏睡
・腹部痛、腹部膨張
*これらの違いは、ケトーシスがあるかどうかです
慢性合併症
糖尿病の合併症は主に、血管病変によるもので生じます。大血管に病変が出ると脳血管疾患や冠動脈疾患などが生じ、小血管に病変が出ると、三大合併症である腎症、網膜症、神経症を引き起こします。その他にもさまざまな合併症があり、理学療法にも大きく影響します。
・ニューロパシー
ニューロパシーは、神経細胞内におけるソルビトール(不適切なグルコース代謝物)の蓄積に関係していると考えられています。ソルビトールの蓄積により、体液と電解質の異常な移動および神経細胞機能異常が起こります。このような代謝異常と神経組織への血流低下が、ニューロパシーを引き起こします。
これは、中枢神経、末梢神経、自律神経に影響を与えます。末端の神経ほど障害されやすく、四肢末端の感覚異常が特徴的です。また、筋力低下、筋委縮も引き起こし、特に近位筋の筋力低下が起こりやすいとされています。
手根管症候群もよくみられる合併症です。これは、大血管のダメージによる正中神経の虚血が原因であると考えられています。
そして、一番注意が必要なのが、足部の変化です。感覚障害により、無痛性の外傷、潰瘍を引き起こし、それが感染につながります。その感染は、最終的には壊疽まで引き起こし、切断が必要になる場合があります。
・関節周囲炎
糖尿病では、肩関節周囲炎の発症率は通常の5倍とされています。これはインスリン依存性の人に多く、両側性の障害であることが多いです。機序ははっきりわかっていませんが、微小血管障害に伴う、関節周囲の結合組織の細胞増殖や腱鞘の影響ではないかと考えられています。
・手のこわばり
微小血管系の障害が影響によって、手のこわばりが出現します。指の真皮コラーゲンの過剰蓄積による屈筋腱鞘炎や、手掌腱膜の結節性肥厚と指の屈曲拘縮を特徴とするデュピュイトラン拘縮により、手のこわばりが引き起こされます。
また、糖尿病患者はCRPSに進行することがあります。
以下に、合併症をまとめます。
アテローム硬化症 | 大血管疾患 ・脳血管疾患 ・冠状動脈疾患 ・腎動脈狭窄 ・末梢血管疾患 小血管疾患 ・ネフロパシー ・網膜症 ・皮膚、身体器官への循環低下 |
感染、創傷治癒の障害 | |
ニューロパシー | ・自律神経(胃不全麻痺、下痢、失禁、起立性低血圧、心拍数低下) ・末梢神経(多発性ニューロパシ‐、糖尿病足) ・糖尿病性筋委縮 ・手根管症候群 ・シャルコー関節 |
関節周囲炎 | |
手のこわばり | ・屈筋腱炎 ・デュピュイトラン拘縮 ・CRPS |
以上のように、糖尿病はさまざまな身体症状を引き起こします。個人的に、血圧障害、糖尿病は症状を長期化させる大きな要因になっていると考えています。そして、その血圧障害や糖尿病の改善には、薬や理学療法だけではなく、生活習慣の見直しが必須となります。
また、生活習慣の指導は、総合的にできる職種はいませんので、理学療法士としてその知識を有していることは、強みになるのではないかと考えています。
水分バランス
体の約70%は水分で構成されています。そのため、水分の不均衡は、身体にさまざまな影響を及ぼします。以下に水分不足、水分過多による身体への影響について書きます。
水分不足(脱水)
水分不足は溶質の不足を伴うケースと、伴わないケースの2つのタイプがあります。
溶質の不足を伴わないケースでは、間質、血管内に身体溶質の過度の凝集をもたらします。この場合、平衡を保つために、浸透作用によって細胞内から細胞外へ水分の移動が起こる必要があります。そのような作用から、浸透圧性利尿、細胞脱水などが生じます。
原因としては、水分摂取量の低下、過換気や尿崩症などの症状、経口栄養(水分摂取を伴わない溶質摂取の増加)、DMによるグルコースレベルの上昇(溶質の過度の増加)などが挙げられます。
もう一つのタイプの水分不足は、出血、多量の発刊、消化管分泌の不足(吐き気、下痢)などで起こります。これらが重度になると、血液量減少性ショックを引き起こします。
脱水は、高齢者に起こりやすいですが、健常成人でも、過度の運動で体温が上昇したときなどに起こる可能性があります。その際は、起立性低血圧などがよく認められます。
以下、脱水の臨床症状をまとめます。
早期徴候 | 状態の悪化により出現する徴候 |
・口渇 ・体重減少 |
・皮膚膨圧の低下 ・口、咽頭、顔面の渇き ・発汗喪失 ・体温上昇 ・排尿量低下 ・起立性低血圧 ・意識障害 ・ヘマトクリット値の上昇 |
水分過多
水分過多に関しても、溶質の増加を伴うケースと、伴わないケースに分けることができます。前者は浮腫、後者は水中毒として起こります。
浮腫は、過剰な液体が細胞外に溜まり、間質に液体が蓄積することにより起こります。浮腫の原因はさまざまで、静脈閉塞、心拍出量低下、内分泌不均衡、血清蛋白質の喪失(やけど、肝疾患、アレルギーなど)で起こります。
このような場合、利尿薬が処方されることが多いですが、その際は運動によるカリウム枯渇に注意する必要があります。カリウムの枯渇は、筋力低下、疲労、不整脈、吐き気、嘔吐を引き起こします。よって、少しでもカリウム枯渇が起こる可能性がある場合は、運動前のカリウム値の検査が必須になります。
一方、水中毒は、溶質に対して過度の細胞外液がみられることにより起こります。このとき、平衡を保つために、水分が細胞内に移動します。そのため、脳組織に水分が移動し、水中毒の症状を引き起こします。
原因としては、腫瘍や内分泌障害、過剰な水道水の摂取などが挙げられます。
また、臨床症状としては、脳組織に障害が出るため、主に神経性の特徴がみられます。
以下、浮腫、水中毒の臨床徴候についてまとめます。
浮腫 | 水中毒 |
・体重増加 ・就下性浮腫 ・圧痕水腫 ・血圧上昇 ・頚部の血管拡張 ・浸潤(肺、心臓、腹膜) ・うっ血性心不全 |
・覚醒レベルの低下 ・傾眠傾向 ・食欲不振 ・協調性低下 ・痙攣 ・突然の体重増加 ・過換気 ・熱感、湿性のある皮膚 ・脳圧増加(脈拍減少、収縮期血圧の上昇、拡張期血圧の低下) ・軽度の末梢性浮腫 |
以上のような、水分バランスの問題に対する知識は、高齢者とよく接する理学療法士にとっては必須になります。そして、これらの症状は、見逃されがちですが、命にかかわる問題に発展する可能性もあります。
「何か今日はちょっとボーっとしているな」「何かいつもより力が入りにくい感じがするな」など、ちょっとした変化に気づき、そこから原因を考えることが大切です。理学療法士としては、このちょっとした変化に気づく能力というものは、とても重要かつ、必須の能力だと考えています。
代謝性アルカローシス
アルカローシスは、塩基の増加、もしくは非呼吸性の酸の喪失のどちらかによって、身体のpHが7.45以上に上昇した状態です。
原因は、過度な嘔吐や上部消化管吸引、利尿剤、制酸薬のような塩基物質の多量摂取にあります。
このような状態になると、肺は塩基環境を緩衝するために、二酸化炭素、水素イオンを維持しようと、呼吸低下が起こることがあります。また、アルカローシスは筋の痙攣を起こし、筋機能に影響することがあるため、理学療法士は注意が必要です。
以下に、症状をまとめます。
・吐き気、嘔吐
・下痢
・意識障害
・易刺激性
・筋収縮、痙攣、筋力低下
・異常感覚
・呼吸低下
代謝性アシドーシス
アシドーシスは、不揮発酸の蓄積、あるいは塩基の欠乏により、pHが7.35以下に低下した状態です。
原因は、糖尿病性ケトアシドーシス、乳酸アシドーシス、腎不全、重度の下痢、薬物性もしくは化学性中毒があります。
糖尿病性ケトアシドーシスでは、脂肪の分解によって、ケトンおよび他の酸が産生されることで生じます。
腎不全では、腎障害によって過剰な酸の除去ができないだけでなく、必要な重炭酸イオンを産生できなくなることで生じます。また、腸および膵臓の分泌物はかなりアルカリ性であるため重度の下痢は、これら塩基の喪失が起こります。
さらに、アシドーシスは多量のアセチルサリチル酸の摂取によっても引き起こされ、アスピリンの多量投与を行っている患者さんは注意が必要です。
以下、症状をまとめます。
・頭痛、疲労
・嗜眠状態
・吐き気、嘔吐
・下痢
・筋痙攣
・昏睡
・過換気
痛風
痛風は、プリン代謝の遺伝性の先天異常による症状で、血清尿酸の上昇を特徴とします。主に男性でみられ、40~50歳代にピークがみられます。閉経後の女性は、男性の発生頻度に近づきます。
中年、肥満、ストレス、プリン体が豊富な食べ物の多量摂取は、そのリスク因子です。また、ペニシリンやチアジド系利尿薬もリスク因子になります。
尿酸は通常、尿になるまでに血液中に溶解します。しかし、痛風では、尿酸が結晶に変化し、関節や腎臓のような組織に蓄積することによって、痛風性関節炎や腎疾患を引き起こします。
また、痛風は腫瘍、腎臓疾患、糖尿病や高脂血症のような、他の障害やその治療の結果として起こることもあります(二次性高尿酸血症)。
以下、二次性高尿酸血症の原因をまとめます。
細網内皮 | ・溶血性貧血 ・骨髄増殖症候群 ・真性赤血球増加 ・骨髄腫 |
腫瘍 | ・白血病 ・リンパ腫 ・多発性骨髄腫 |
内分泌 | ・副甲状腺機能低下、亢進症 ・甲状腺機能低下症 ・糖尿病 |
腎臓 | ・血液透析 ・腎不全 |
薬物 | ・低用量アスピリン ・利尿剤 ・抗腫瘍薬 ・アルコール |
その他 | ・軟骨石灰化症 ・疥癬 ・サルコイドーシス ・肥満 ・高脂血症 ・飢餓 |
症状の特徴は、手足の末梢関節が障害されやすく、90%の患者さんが、母趾中足指節関節が障害されます。初期に障害されることの多い部位は、足背、足関節、踵、膝関節、手関節です。尿酸塩の蓄積は急性の炎症反応を起こします。突然の関節痛、増悪性、痛みのピークは12時間以内、炎症関節の浮腫と強い圧痛などの特徴も認められます。
症状は放置すると、10日~2週間続きます。
以下、症状をまとめます。
・痛風結節
・関節痛、浮腫、発赤
・発熱、悪寒
・倦怠感
また、ピロリン酸カルシウムの結晶を原因とする偽痛風があります。偽痛風は通常、単関節(とくに膝関節)に影響を与える痛風様発作を特徴とし、軟骨石灰化を伴います。
ヘモクロマトーシス
ヘモクロマトーシスは、鉄代謝の先天異常です。鉄の過度な消化管吸収と身体への蓄積、実質器官における進行性組織損傷を特徴とします。50歳代の男性に多く、女性は月経や妊娠によって血液を失うため、男性より10年遅く症状が出現します。
鉄の蓄積による症状は、多くの年月がかかるため、初期段階では症状はみられません。よって、疾患が明らかになったときは、心臓、肝臓、内分泌腺、皮膚、関節、骨、膵臓の組織や終末器官の不可逆的なダメージを引き起こしており、手遅れであることが多いです。
ビタミンCやアルコールは、食事の鉄分の吸収を促進するため、この疾患が発症する一要因となります。鉄吸収の障害が起こっていることは、はっきりしていますが、その正確なメカニズムは不明です。
特徴的な臨床症状は、肝臓肥大、皮膚の過剰な色素沈着、糖尿病の3つです。
また、軟骨石灰化もよく見られる症状で、リウマチ様の滑膜炎の急性発作が起こります。関節炎もヘモクロマトーシスの臨床症状ですが、これは鉄によるものではなく、ピロリン酸カルシウム結晶の蓄積によるものです。
関節障害はリウマチに類似し、中手指節関節に影響を与えます。
以下に臨床症状をまとめます。
・関節症、関節痛
・進行性筋力低下
・両側性圧痕浮腫
・局在性のはっきりしない腹部痛
・性腺機能低下症
・うっ血性心不全
・皮膚の過剰な色素沈着
・体毛の喪失
・糖尿
代謝性骨疾患
結合組織に影響を与える多くの代謝性疾患の中で、骨粗鬆症、骨軟化症は理学療法士として、よく関わる疾患です。
骨粗鬆症
骨粗鬆症は、骨の単位体積当たりの質量が低下した状態です。30歳以降、人間の骨組織は、リモデリングサイクルにおける骨の形成と吸収の不均衡により、骨の質量は低下していきます。
これは、カルシウムの消化管における吸収効率の低下によって起こり、加齢とともに悪化します。
骨粗鬆症は、特発性、閉経後、老年性骨粗鬆症などの原発性骨粗鬆症と、内分泌障害、腎不全、関節リウマチ、腸管および肝臓疾患に関連した吸収不良症候群、慢性呼吸器疾患、慢性薬物依存などを伴う二次性骨粗鬆症に分類されます。
リスク要因として、薬物(甲状腺補完薬、コルチコステロイド剤、抗凝固剤、リチウム、抗痙攣薬)、閉経後(エストロゲン不足)、加齢、活動量の低下、喫煙、中等度のアルコール摂取、骨折の家族歴、透析、長期のステロイド投与などが挙げられます。
早期の骨粗鬆症には、明らかな徴候や症状はみられません。しかし、中等度から重度の背部痛および体重減少が、唯一早期に観察できる徴候といえます。
骨粗鬆症による疼痛は、腹部や側腹部に疼痛が放散することがあり、長時間の座位、立位、体幹屈曲、腹圧上昇で悪化し、股関節、膝関節屈曲位での側臥位で軽減します。
骨密度の変化は、30%以上の喪失ではじめてレントゲン上に現れます。
以下、臨床症状をまとめます。
・背部痛
・脊椎圧迫骨折
・骨折
・身長の低下(最大時より25㎜以上の低下)
・後弯
・老人性円背
・活動耐久性低下
・早期満腹感
骨軟化症
骨軟化症は、骨基質の無機化障害に起因する骨の軟化です。原因はビタミンD欠乏であり、紫外線の暴露の不足、食事からの摂取不足、ビタミンD吸収や使用の障害、ビタミンD異化作用の増加、細尿管不全、組織におけるビタミンDレセプター数の病的低下などに起因します。
特徴としては、骨、とくに脊椎、骨盤、下肢の脱石灰化が挙げられます。そして、レントゲン上で、横断的な骨折様の線および骨基質に脱塩領域がみられます。これは、軟化した骨の血流を支配する栄養動脈の圧迫に起因すると考えられています。
症状としては、重度の骨痛、骨格変形、骨折、重度の筋力低下、疼痛がよくみられます。これが小児に起こると、「くる病」とよばれます。
今回述べたように、内分泌系・代謝系疾患は、理学療法士の治療を遷延させる大きな原因になります。そのため、これらの疾患を鑑別することは、理学療法士として非常に重要です。