東洋医学を学ぶ際には、基本的な理論を理解することが大切です。ただ、東洋医学の基礎理論は難しく、自己学習で学ぶことは容易ではありません。
しかし、東洋医学の知識を臨床で応用するためには、基礎理論を理解することが必須なのです。
そこで今回は、「東洋医学の基礎理論:陰陽五行論、気血津液、蔵象学説」にういて解説します。
目次
陰陽五行論について
陰陽五行論は、東洋医学を理解するための基礎の基礎になります。
陰陽論とは
陰陽論は、東洋医学の理論の中で最も基本的な理論になります。その理論とは「万物は対立した性質をもつ2つの要素にわけることができる」というものです。そしてその2つの要素というのが「陰」と「陽」の2つになります。
例えば、陰である夜の月と、陽である昼の太陽などがその例です。
陰は静かで暗く、冷たい状態を象徴し、その本質は内向きの力が働く凝集の性質となります。一方、陽は動的で明るく、熱い状態を象徴し、その本質は外向きの力が働く拡散の性質になります。人間では休養、睡眠などの静の活動が陰にあたり、活動、興奮などの動の活動が陽にあたります。
陰陽論では、生物はこの陰陽が流動的に変化しながら、バランスを保っており、このバランスが崩れると、体に不調が生じるという考え方です。さらに陰陽の運動は、万物を生み出す原動力であるとされています。つまり、陰陽の運動の消失は死を意味します。
以下に陰陽の性質をまとめます。
陽の性質 | 陰の性質 |
・外に向かう ・上昇する ・躍動的 ・軽い ・薄い ・明るい ・熱を生む ・乾燥する |
・内に集まる ・下降する ・静か ・重い ・吸収する ・冷たい ・暗い ・水を生む ・湿潤を生む |
陰陽論を医学に応用する
陰陽論は地球中におけるさまざまな現象の説明にも使われますが、人体の組織構造や生理機能、病気の発生や進行の説明、診断や治療の決定などにも応用されます。
・組織構造
すべての人体組織は陰と陽の対立した部分に分けることができます。例えば体腔より内、腹、臓は陰であり、体腔より外、背中、腑は陽であるとされます。
このように人体組織は、上下、内外、表裏、前後の各部分で陰陽の対立と統一が存在します。
ちなみに臓とは肝、心、脾、肺、腎の5臓を指し、腑とは胆、胃、大腸、小腸、膀胱、三焦の6腑を指します。このことに関しては、蔵相学説にてまた説明します。
・人体の生理機能
機能は陽であり、物質は陰であります。人体の生理活動は物質に基づいており、物質の運動がなければ生理機能は起こりません。そして逆に、生理活動の結果として、物質の新陳代謝が行われます。
このように、機能と物質の関係においても陰陽が互いに依存し、影響し合います。つまり、陰陽が互いを利用できなくなり、分離してしまえば人の命も終わってしまいます。
・病理的変化
陰陽はお互いに影響を与え、一方が強くなるともう一方は弱くなります。そして、ある病理的な変化はこのような相互作用によって起こる、陰陽のバランスの崩れによって説明されます。
陰陽のどちらかが過剰になり過ぎても、過少になり過ぎても病気になり、病理的変化が起こります。ほとんどの病理的変化は、このように陰陽どちらかの過剰か、過少によって説明されます。これは、疾病の病理的変化がいかに複雑であっても、すべて陰陽のバランスの崩れによって説明できることを意味しています。
・診断
先ほど述べたように、病気の発生と進行は、どんな病気であれ陰陽のバランスの崩れで説明ができます。東洋医学の診断では、最初に陰と陽に分けることによってその病気の本質を知り、複雑な症状を分かりやすくします。
また、全体を陰陽で大きくまとめるだけでなく、診察の結果を細かく分析するためにも使われます。例えば、顔色や脈など望・聞・問・切などの四診も結果を陰陽によって細かく分けられています。
望とは視診、聞とは聴診、問は問診、切は触診など実際に体に触れる検査のことを指します。基本的に診断は、この四診の結果を総合して行われます。
・治療
この陰陽論を用いた診断は、そのまま治療にも応用します。その応用方法は簡単です。陰陽論では病気が発生し、進行する根本原因は陰陽のバランスの崩れだとしています。そのため、陰陽で不足している分を補い、余っている分を捨てるといった方法でバランスの調整を行います。
これは薬物の性質の分類にも応用されます。
このように病気の治療は、陰陽が過剰、過少になっているため起こる症状に基づいて治療減速を確定します。それを薬物性能の陰陽と結び付けて適合する薬剤を選び、陰陽のバランスを整えるということを行います。
以上のように、陰陽論とは単純ではありますが、人体の構造や機能をはじめとする、現象のすべてを説明するのに使えます。この理論は東洋医学の基礎になりますので、しっかり理解しておいてください。
五行学説とは
この概念は「自然界や人間の体は木・火・土・金・水という5つの要素から成り立ち、これらは一定の法則によって相互作用し、バランスをとっている」というものです。
木・火・土・金・水とは、自然界にあるものの象徴で、それぞれにその特徴があります。木は樹木が成長するように、四方に柔軟に広がる性質を持ちます。火は、炎のように勢いよく上昇する軽やかな性質、土は養分やミネラルを豊富に含み、いろいろな生命の誕生に関わることから豊潤さや濃厚さといった性質を持ちます。そして、金は従順さや変更、水は冷やしながら下方に流れるといった性質をもちます。
このような性質が、人間の体にも当てはまるものと考えます。例えば、木は「肝」、火は「心」、土は「脾」、金は「肺」、水は「腎」というように五行と臓器を対応させて考えたりします。
五行の相互関係とは
五行はお互いに関係しており、その関係を相生・相克の関係といいます。相生とは、5つの要素がそれぞれ他の特定の要素を生み出す関係のことをいいます。一方、相克とは、それぞれが他の特定の要素を抑制する関係のことをいいます。
相生は、木・火・土・金・水において、木は火を生み、火は土を生み、土は金を生むといったように、この順番で次に並ぶものを生み出すとします。
相克は、木は土を抑制し、火は金を抑制し、土は水を抑制するといったように、この順番で一つ先のものを抑制するとします。
以下、五行の相生相克関係にまとめます。
相生関係 | 相克関係 |
木→火 火→土 土→金 金→水 水→木 |
木→土 火→金 土→水 金→木 水→火 |
これは具体的にどのように使われるかというと、先ほど述べたように、臓器も五行と対応しています。例えば木は肝に、土は脾に対応しています。また蔵相学説で述べますが、東洋医学での脾とは西洋医学での胃と同じような働きがあります。
肝と脾の相克関係について考えます。例えば、肝の機能が過剰になり過ぎたとします。このとき相克の関係で、脾の機能は抑制されます。つまり、食欲がなくなるなどの脾の機能低下が認められたとき、原因を肝の過活動に求めることができるということです。
以上のように、陰陽論と同様にすべての物事は五行に当てはめることができ、それらは相互に関係しています。この相互関係を使って、今の現象の原因を突き止めたり、その治療に応用したりします。
このように、五行学説は陰陽論に続いて重要な基礎理論になります。これは暗記が必要ですが、東洋医学を応用する際には絶対に必要な知識なので、覚えておいてください。
気・血・津液について
気・血・津液は、東洋医学において重要な概念ですが、西洋医学を学んでいる人にとっては非常に理解しにくいものです。ただ、臨床で東洋医学を応用するためには間違いなく必要な知識になります。
気・血・津液の役割
この3つは関連しながら全身をめぐっています。気や血が全身を流れているのはイメージしやすいと思いますが、津液とは言葉の意味もよくわからないという人が多いのではないでしょうか。
津液とは簡単にいうと血液以外の体液のことです。つまり、関節液やリンパなどは津液に含まれます。また、津液はさらに津と液に分けられ、津は体内を自由に巡るのに対し、液は関節液や細胞内の体液として、特定の組織内を巡るという違いがあります。
津液の役割は、体に潤いを与え、熱を適度に鎮めるというものになります。
気は東洋医学の中でも重要な概念であり、生命活動の根源となる目に見えないエネルギーを指します。最近流行っている経絡など治療は、この気の流れを良くしているものです。そして、この3つ中でも最も巡る範囲が広く、全身を自由に行き来しているのが特徴です。
気の役割は、生命活動の原動力で、血と津液のもとになります。
また、血は西洋医学でいう血液と同じような意味です。しかし、東洋医学ではその栄養を運ぶなどの機能も含み、血液よりやや広い概念で用いられます。
血の役割は、熱源となる栄養を体に供給するというものです。
気・血・津液には以上のような役割と特徴があります。
それぞれの関係性
これら3つは単独で機能しているのではなく、お互いに関係しあっています。例えば、先ほど述べたように、気は血と津液を作りだすもととなっています。そのため、気が足りないと血と津液も不足します。
また、血の栄養分は気の材料になり、津液は気や血の機能を支える役割があります。
このように、この3つはお互いがお互いになくてはならない存在なのです。つまり、どれか一つが欠けてしまうと、3つすべてに影響を及ぼす可能性があるということです。
これらの問題は、その量と動きにあります。量自体が少ないとその生成に障害が及び、動きに問題があると、それぞれの機能に障害が及びます。
以上のように、気・血・津液はお互いに影響し合いながら、身体内を絶えず巡ることで健康を維持しています。少し理解しにくい部分もあるかと思いますが、東洋医学を学ぶ際にまず大切なことは、基礎理論を受け入れることにあります。
ですので、まずは「東洋医学とはこのようなものだと」受け入れて、学ぶことが大切になります。学んでいるうちに、臨床と理論が結びつき、納得できるものになるかと思います。
蔵相学説(五臓六腑)について
陰陽五行論や気・血・津液を学ぶだけでは、東洋医学を臨床でどのように生かせば良いのかを理解できない人がほとんどだと思います。しかし、ここから解説する蔵相学説を学ぶことで、東洋医学を臨床に応用するイメージができるはずです。
五臓六腑の役割
五臓六腑とは「肝・心・脾・肺・腎」の五臓と、「胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦」という六腑のことをいいます。これらは西洋医学でいう内臓とは似て非なるものです。そのため、東洋医学を臨床に応用するためには、東洋医学における五臓六腑の機能について理解することが大切です。
・魂が宿る場所「肝」
東洋医学でいう「肝」は体にとって重要な役割を担っています。五行学説では胆、目や筋、爪などと関係しているといわれ、肝の不調はこれらに影響します。
肝の生理機能は大きく2つあります。
一つ目は、気の運動の調整です。肝は気の運動の調整の主役になります。気の運動を調整することによって、気血の運行を維持したり、消化や水分代謝を促進します。
また、気血は精神機能にも大きく影響するため、肝の不調は精神、心理活動にも影響します。
そして二つ目は、血の調整です。肝は血を貯蔵したり、血流を調整するなどの機能があります。血流の調整は、肝が心にその必要量を指示することによって調整されます。
このように、肝は体にとってとても大切な気血の調整を行っているのです。
・神の宿る場所「心」
東洋医学でいう「心」は、西洋医学でいう心臓の役割に加えて、脳の役割の一部も担っているとしています。また、五行学説では小腸、脈、顔面、舌と関係しており、心の不調はこれらに影響します。
心の生理機能は大きく2つあります。
一つ目は血の調整です。これは先ほどの肝と協調して行われます。肝からの支持を受けた心が血液量などを調整し、血を管理します。
そして二つ目が精神機能です。これは、血の調整と大きく関係します。東洋医学では、精神活動の物質的基礎は血にあると考えられています。そのため、その血の調整を行う心は精神活動に大きく影響するということです。
このように東洋医学における心は、西洋医学における心臓の循環作用に加えて、精神活動にも関与しているのです。
・消化器の中心「脾」
東洋医学での「脾」は、西洋医学でいう消化器のすべての役割を担っています。五行学説では、胃、唇、口の内側、肌肉と関係しており、脾の不調はこれらに影響を及ぼします。
脾の生理機能は大きく2つあります。
一つ目は、消化吸収作用です。これは西洋医学でいう消化器全般の役割を指します。食べ物を消化吸収し、全身に送り出すのが脾であり、水分に関してもその役割は脾が担います。
二つ目は、血の制御です。これは血が脈外へ漏れ出ないように制限している機能です。つまり、この機能が低下すると内出血などが起こります。
・一番弱い臓「肺」
肺は臓の中で最も弱く、すぐ症状が出る臓だとされています。その役割は西洋医学でいう呼吸器系全体の機能を担っています。五行学説では大腸、皮膚、毛穴、鼻などに関係しており、肺の不調はこれらに影響を及ぼします。
肺の生理機能は大きく3つあります。
一つ目は、気の管理です。肺は全身の気と呼吸の気を管理しています。二つ目は、気を送りだす機能です。呼吸や食べ物によって得られた気を全身に送り出す役割があります。そして三つ目が水分調整です。これは血液やその他の体に含まれる水分の流れを調整し、流れが滞らないようにしています。つまり、この機能が低下すると浮腫みなどが起こります。
・生命の源泉「腎」
東洋医学でいう「腎」は、西洋医学でいう腎臓の役割だけでなく、生殖機能の役割も担っています。五行学説では膀胱、骨髄、脳、髪、耳、歯、生殖器、肛門などと関係しており、腎の不調はこれらに影響を及ぼします。
腎の生理機能は大きく3つあります。
一つ目は発育と生殖機能です。腎は、人体を構成し機能させる基本物質である精気を貯蔵します。この精気は発育と生殖能力に深く関係しているため、腎はその機能を担っています。二つ目は水分代謝です。この機能は西洋医学の腎臓の機能と同様です。そして三つ目は呼吸機能です。腎は肺の呼吸運動を助けて深い呼吸にします。
以上のように、東洋医学の五臓は西洋医学の臓器より広い役割があります。始めは頭に入りにくいと思いますが、基礎になりますので覚えてください。
・胆
胆の生理的機能は、胆汁の貯蔵と分泌であり、西洋医学のそれと似ています。また、胆と肝は経脈によって属絡関係があり、この機能は肝の機能に依存しています。
つまり、肝に問題が生じると胆にも問題が生じるということです。
・胃
胃の生理機能は、食物を受け入れ消化を行い、小腸に送り出すことです。これも西洋医学でいう胃の役割と類似しています。東洋医学での胃の役割は、小腸までの消化に加えて、その後の大腸まで、そして大腸からの排便までの機能を含みます。
また、胃は脾と関係しており、胆と肝との関係のように相互に依存しています。
・大腸
大腸の生理機能は、小腸での栄養吸収された食物カスを受け取り、その水分を吸収することで糞便を作ることです。つまり、胃の機能の延長になります。これも西洋医学のその機能と類似しています。
また他の腑と同じように、大腸は肺と関係しており、お互いに依存しています。
・膀胱
膀胱の生理機能は尿を貯めることと、排尿です。これも西洋医学と働きはほとんど同じです。膀胱は腎と属絡関係にあり、相互に依存しています。
・三焦
この三焦という言葉は東洋医学に特有のもので、聞き慣れないものかと思います。これは、具体的な概念は明確ではありません。西洋医学でいうと体腔と考えてよいと思います。
上焦・中焦・下焦の3つに分けられ、その機能は元気を全身に流すことと体液の循環にあります。つまり、気と水分の通路ということになります。
上焦には心と肺、頭部、中焦には胃と脾、肝、胆、下焦には小腸や大腸、腎、膀胱が含まれ、それぞれの気と水の流れに関係しています。
このように三焦は水の流れに関係しているため、具体的には三焦の機能低下は浮腫みなどを引き起こします。
以上のように、六腑の機能は西洋医学のそれと類似しています。そのため、五臓と比較して理解しやすいのではないでしょうか。しかし、実は重要なことは五臓との関係性であり、その関係性を考えることでさまざまな現象を説明できます。